Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する
微かな余韻
その夜。
自宅のソファに腰を下ろした瞬間、ようやく一日が終わる。
いつもなら、頭の中は空間の反省点や
次の企画のラフでいっぱいになる。
光の角度。
布の揺れ方。
来場者の動線。
仕事の余韻だけで、十分だった。
なのに今日は違う。
資料を開いても、
ふと別の顔が浮かぶ。
「……何歳だろ」
低くて落ち着いた声。
スーツの似合い方からして、
自分より少し上だろうか。
名刺はテーブルの上にあるのに、
わざわざ手に取らない。
名前を確認すれば済むのに、
なぜかそのままにしている。
思い出すのは、目だ。
まっすぐで、変な色が混ざっていなかった。
17歳から20歳までの恋。
あれは、人生のすべてみたいな時間だった。
同じ夢を語り、
同じ未来を信じていた。
けれど距離は、
少しずつ温度を奪っていった。
電話越しの沈黙。
会えない季節。
最後は、嫌いになったわけじゃない。
ただ、終わった。
それ以来。
もう恋はしない、と思っていたわけじゃない。
必要なかった。
仕事が楽しかった。
自分の世界を作ることに、満ち足りていた。
誰かに寄りかからなくても、
ちゃんと立てる。
そう思っていた。
けれど。
「なんか、ちゃんとしてたな」
ぽつりと独り言。
“すごい”でもなく、“かっこいい”でもない。
ちゃんとしていた。
空間を見る目。
人に向ける視線。
言葉の選び方。
誠実、という言葉が一番近い。
自分でも意外なくらい、印象が残っている。
たった数分の会話なのに。
希はソファに横になり、
天井を見上げる。
淡い光が、今日の会場の色を思い出させる。
もしかして。
これは、ただの仕事の縁じゃないのかもしれない。
そう思った瞬間、
胸の奥がわずかにざわつく。
怖くはない。
でも、静かに波が立つ。
「……ないない」
そう呟きながらも、
完全には否定できない自分がいる。
仕事の余韻ではない何かが、
確かに、残っていた。
自宅のソファに腰を下ろした瞬間、ようやく一日が終わる。
いつもなら、頭の中は空間の反省点や
次の企画のラフでいっぱいになる。
光の角度。
布の揺れ方。
来場者の動線。
仕事の余韻だけで、十分だった。
なのに今日は違う。
資料を開いても、
ふと別の顔が浮かぶ。
「……何歳だろ」
低くて落ち着いた声。
スーツの似合い方からして、
自分より少し上だろうか。
名刺はテーブルの上にあるのに、
わざわざ手に取らない。
名前を確認すれば済むのに、
なぜかそのままにしている。
思い出すのは、目だ。
まっすぐで、変な色が混ざっていなかった。
17歳から20歳までの恋。
あれは、人生のすべてみたいな時間だった。
同じ夢を語り、
同じ未来を信じていた。
けれど距離は、
少しずつ温度を奪っていった。
電話越しの沈黙。
会えない季節。
最後は、嫌いになったわけじゃない。
ただ、終わった。
それ以来。
もう恋はしない、と思っていたわけじゃない。
必要なかった。
仕事が楽しかった。
自分の世界を作ることに、満ち足りていた。
誰かに寄りかからなくても、
ちゃんと立てる。
そう思っていた。
けれど。
「なんか、ちゃんとしてたな」
ぽつりと独り言。
“すごい”でもなく、“かっこいい”でもない。
ちゃんとしていた。
空間を見る目。
人に向ける視線。
言葉の選び方。
誠実、という言葉が一番近い。
自分でも意外なくらい、印象が残っている。
たった数分の会話なのに。
希はソファに横になり、
天井を見上げる。
淡い光が、今日の会場の色を思い出させる。
もしかして。
これは、ただの仕事の縁じゃないのかもしれない。
そう思った瞬間、
胸の奥がわずかにざわつく。
怖くはない。
でも、静かに波が立つ。
「……ないない」
そう呟きながらも、
完全には否定できない自分がいる。
仕事の余韻ではない何かが、
確かに、残っていた。