Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

眠れない夜

旬もまた、珍しく眠れなかった。

ベッドに横になり、天井を見上げる。

いつもなら、頭の中は数字だ。

稼働率。
テナント契約。
次の再開発計画。

やるべきことを並べていけば、
自然と眠気はやってくる。

けれど今日は違う。

白い空間。
淡いピンクの光。
布の揺れ。

そして、その中に立つ彼女。

「……なんなんだよ」

小さく息を吐く。

たった数分話しただけだ。

仕事の一環。
それ以上でもそれ以下でもない。

なのに、思い出すのは
彼女の言葉よりも、間だ。

自分の手柄にしないところ。

誇らしげでも、媚びるでもない笑み。

落ち着いていた。

「若いのにすごいな」

口に出して、苦笑する。

何も知らないのに。

名刺はデスクの上にある。

手を伸ばせば、
すぐに連絡先だって分かる。

でも、今はまだ見ない。

偶然であってほしい、と思っている自分がいる。

仕事を理由にするのは簡単だ。

けれどそれでは、何かが違う気がする。

またどこかで会えるかな。

天井を見つめたまま、そんなことを考える。

合理的じゃない。

再会は自分で作るものだと、
いつもならそう思う。

それでも。

今日の交差は、
あまりにも静かで、あまりにも自然だった。

だからこそ、
もう一度、あの空気の中で会いたいと思う。

偶然という形で。

眠れないまま、寝返りを打つ。

胸の奥に残るのは、焦りではない。

期待だ。

静かに始まった何かが、
消えていないことを確かめるように。
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