愛しい君へ〜君が振り向くその日まで〜

「隣に失礼してもいいかな?」

穏やかな表情を浮かべながら、わたしにそう話し掛けてきた藤崎社長。

わたしは驚きながら、「は、はい。どうぞ。」と返事をした。

藤崎社長は、わたしの左隣の椅子に腰をかけると、こちらに身体を向け、足を組んだ。

藤崎社長の登場に周りがざわつき始める。
藤崎社長は、女子社員たちから陰で「イケメン社長」と呼ばれる30歳の若社長で、そんな藤崎社長に気に入られようと努力する女子社員は多かった。

(藤崎社長が······なぜわたしの横に?)

何とも言えない威圧的で独特なオーラを纏う藤崎社長は「君が、笠井ひよりさん?」と、わたしに問い掛けてきた。

その声は甘く、耳に纏わりつくように残る声だった。

「は、はい。笠井ひよりです。わたしの名前、ご存知だったんですね。」

「君は評価が高いと聞いているからね。27だっけ?その年齢で主任だなんて、頑張ってくれてるんだね。」
「···あ、ありがとうございます。」

藤崎社長は、わたしの顔を覗き込み見つめてくると思えば、下から上まで確認するようにゆっくりと見つめ、それからテーブルに置かれたわたしのお弁当に視線を移した。

「手作り弁当?」
「はい。大したものは入ってませんが······、一応。」

わたしがそう答えると、藤崎社長は穏やかに微笑み、それから「君、合格。」と甘ったるい声でそう言った。

藤崎社長は席を立つと、みんなの視線を集めながら立ち去って行く。

そんな藤崎社長の姿を驚きながら見送ったわたしと可奈子は、顔を見合わせると「合格って何?」と言い合ったのだった。
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