天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜
<そうか。届いたんだな。向こうが曲げないなら、かなり長くなるだろうな。光藤さんも知らなかったって証拠を揃えなきゃいけないだろうから>

 先生が私の話を驚くことはなかった。
 レストランであんなに大きな声で<弁護士から書類が届く>なんて言われたから、聞こえてたよね。私、悪いことしたかな。
 不倫だなんて知っていたら、優馬になんか近づかなかったのに。
 いろいろと面倒になってきた。生きる楽しみもない。私の家族だってバラバラになっているし、守りたいものもないし、守ってくれる人もいない。
 友達はいるけれど、みんな結婚して子どもがいるからいつも忙しそうで。こんなことで、連絡なんてできない。

「普通に恋愛してただけだと思っていました。幸せって一瞬で壊れるんですね。私、自分の明るい未来なんて想像できない。もう疲れました。面倒です」

 風見先生に愚痴っちゃった。

<生きたくても生きられない人がたくさんいる。急に亡くなる人もいる。必ず明日があるわけじゃない。面倒とか言うな>

 ズキンと心が痛む。
 先生の言っていることが正しすぎて。生きたいって思っていても病気や事故で亡くなってしまう人だっているんだ。風見先生はそんな人たちを近くで見ていて救っているから、私が言っていることは単なる甘えだと思うよね。
 私も病院に勤めているのに、こんな自分が恥ずかしい。
 
 自分の発言が愚かすぎて悔しくて涙が出そうになった時
<光藤さんには俺がいるだろ。だから、明るい未来しかない>
 風見先生が恥ずかしげもなく真面目にそんなことを言ってきた。

<光藤さんだって辛いよな。気持ち、考えられなくてごめん>

 先生が、ぼそっと謝ってくれた。

「いえ。先生はいつも患者さんを救うために頑張っているのに。こんなことで弱音を吐いてしまって、私の方こそすみませんでした」

 涙をこらえる。

<俺だって神様なんかじゃない。自分が無力だって思う時の方が多いよ>

 天才外科医って言われているのに、本当はそんな風に感じているんだ。

<光藤さんには俺がついてる。だから困っていることがあったら言って。この前言ったこと、マジだから。俺は光藤さんに惚れてる。今日だって一緒に弁当食べれて嬉しかった。卵焼き、今度作ってきてくれるんだろ?>

 弱っている心に風見先生の言葉が突き刺さる。
 こんな時に卑怯だ。
 そんなこと言われたら、嬉しくなっちゃうよ。
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