天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜
「すみません。余裕がなくて」

「で、どうだった?」

 先生は腕を組み、首を傾げた。

「えっと。思っているよりも大変そうでした。争う場合、半年から一年くらいかかるみたいで」

「そっか」

 重い沈黙が続く。
 これ以上どうやって会話を繋げていいのかわからない。

「和解だともっと短縮できるんだろ?」

「えっ、あ、はい。そうみたいです。だからって先生にお世話になるつもりはありません」

 先生はこの前、お金を出すとかって言っていたけど。
 そんなことをしたら絶対また面倒なことになる。
 最悪、先生からも訴えられるかも。

「ていうか、光藤さん」

 先生は私のことをジッと見つめ、急に顔を近づけた。
 
 ちょっと、もしかして!

 こんなところでキスされるかも。
 至近距離に耐えきれなくなり、ギュッと目を瞑る。

「最近、きちんとした食事摂ってないだろ。あと水分も。力抜いて」
 
 私はゆっくり目を開けた。

「触るよ」

 先生は私の下瞼に触れ、瞼の裏側を見た。
 結膜を見ているの?

「貧血っぽいだろ。化粧で隠してるけど、目の下、クマもある。しっかりとした睡眠もとれてないんじゃないのか?」
 
 キスされるかもと思った自分がバカみたい。
 先生に触れられた頬がまだなんだか熱い気がする。
 凄腕ドクターの前では、身体のことは嘘はつけないよね。

「その通りです。食欲もないし、元気が出ません」

 いつでも前向きで元気ですってプラス思考な人が羨ましい。
 私は前世に囚われすぎているし、今世は幸せにって思っていた矢先にあんなことがあって、しかも今は訴えられている。前向きになんか――。

「駅前のカフェでちょっと待ってて。飯食べに行くぞ」

 先生は立ち上がり、私の返事を待たずして相談室のドアを開けた。

「えっ。ちょっと。先生!?」

 予定なんかないけど。そんな急に言われても。

「命令だ」

「どうしてっ」

 先生はスタスタと歩き、医局へと戻ってしまった。
 命令って、私、先生の命令に従わなきゃいけないことなんてあったっけ。
 メッセージの返事を無視しちゃったから?

 ふぅと息を吐く。
 
 そういえば、アニル様にも同じようなことを言われたような。
 私が体調を崩した時に
「無理して舞うな。命令だ」
 なんて言ってくれたことがあった気がする。

 前世の記憶、段々細かいところまで思い出してきている。
 やっぱり風見先生ってアニル様に似ている。
 だから記憶も蘇ってくるんだろうな。
< 18 / 25 >

この作品をシェア

pagetop