天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜
 先生に言われた通り、駅前のカフェで待っている。
 大好きなココアを飲んでいると、スッと風見先生が前に現れた。

「お疲れ様です」
 声をかけると
「お疲れ」
 先生も何か頼んだようで、ドリンクを持っている。

 きっと珈琲かな。
 勝手だけど甘い物を食べないイメージだ。

「それ飲んだら行くぞ」

「どこへですか?」

「ご飯。光藤さんに聞いてもどこでもいいですって言われそうだから、俺が考える」

 さすが、合ってる。
 観察眼とか人の性格がすぐにわかる能力でも持ってるのかな。

「風見先生、私になんか構わないで、先生だって休んでください。知ってますよ。先生、先月は急に呼び出しとかあったみたいで疲れてますよね」

 急患の対応が風見先生しか対応できない内容で、オペも続いたって聞いている。先生だって疲れているはずなのに。

「別に。慣れた。プライベート、今は光藤さんに夢中だから。こうやって一緒に居られるだけでも俺は癒されているし」

 先生はふいッとそっぽを向いてしまった。
 そんなこと言われたら私だって恥ずかしいよ。
 先生ってそんなことを言うキャラじゃないよね。
 必死に伝えようとしてくれている。私は何も言い返すことができなかった。

 先生に言われるがまま、駐車場まで行く。

「乗って」

 そう言われたのは、私でもわかる高級車だ。
 風見先生って潔癖そうだから、汚したらどうしよう。靴の底とか汚れてないよね。ていうか、靴を脱いでとか言うのかな。先生が助手席を開けてくれたけれど、とても綺麗すぎて。逆に恐ろしくて乗る気になれない。

「俺、別に潔癖とかじゃない。好きな人とか心許した人なら別になんとも思わない。嫌いな奴なら別だけど」

 私の心を読んだかのように早く乗ってと言ってくれた。

「失礼します」

 助手席に乗ると、先生は行き先も告げずに車を出発させた。
 どこに行くんだろうと景色を見る。車なんかあんまり乗らないから、不思議な感覚。いつもなら電車に乗って、歩いて帰ったり。たまにバスに乗ったり。優馬とのデートも基本的には電車だった。
 この前別れたばかりなのに、遠い昔のように感じる。

 満員電車の中で私をかばってくれたり、荷物を持ってくれたりしたのに。
 あんなに笑ってくれていたのに、どんな気持ちで私と会っていたんだろう。 
 奥さんに後ろめたい気持ちとか、申し訳ないとか、罪悪感とか抱いてなかったのかな。

 ぼんやりとそんなことを考えていると
「着いた」
 言われた先は
「えっ。ここって」
 高級ホテルだ。

「別に変なことしないから。レストランでご飯食べるだけ」

 たしかにここのレストランは有名だけど。
 予約なしで入れるの?
 先生のうしろをついて行くと、スムーズに座席に案内される。

「メニュー見て、好きなもの食べて?」

 好きなもの食べてと言われても、はじめて来たし、どんなものを食べたら良いんだろう。かなり金額も高い。

 どうしよう。

 悩んでいると
「光藤さん、これとか好きそう」
 先生はメニュー表を見て、前菜の海鮮マリネの文字を指さす。

「好きです」

 私が答えると
「俺が直観で選んでいい?」
 私がコクっとうなずくと、先生は私が好きなものばかり選んでオーダーしてくれた。

 どうしてわかるんだろう。

 私が関心していると
「合っている?」
 聞いてくれた。

「はい。全部好きです。びっくりしてます」

「良かった」

 先生はフッと口角をあげてくれた。

「美味しい」

 本当に美味しい。久しぶりにきちんとした食事を食べた気がする。

「美味しいもの食べて、ストレス、少しでも発散しろよ。緊張とかしなくていいから」

「はい」

 私のこと、気遣ってくれているんだよね。
 先生との食事はそれほど会話がなかったけれど、食べ物を美味しいと感じる瞬間だらけで、久しぶりに満腹という感覚を味わえた。
 
 お会計は先生が払ってくれて
「俺が誘ったから」
 の一言で済まされ、いつの間にか私は手を引かれ、ホテルの中を歩いている。
< 19 / 25 >

この作品をシェア

pagetop