天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜
「どうした?」

「いえ、なんでもないです。今日はありがとうございました」

 私が車から降りようとすると、風見先生から抱き寄せられた。

「せんせい……?」

「離したくない。本当は帰したくない」

 耳元に残る彼の声は、いつもの先生とは違って切なそうな苦しそうな声音だ。

「えっと。また会えますよ」

 風見先生は多忙だから、会えない日の方が多いかもしれないけれど。
 一応、同じ職場で働いているし。

 俺様の風見先生が急に弱気になっている。可愛いって思っちゃった。

 私は恐る恐る先生の頭に手を伸ばし、髪の毛を撫でた。
 先生の髪の毛、サラサラしてる。

「光藤さん……?」

「どこにも行かないから大丈夫です」

 風見先生はギュッと強く抱きしめたあと、私のことを離した。

「わかった」

 先生と別れ、一人アパートに帰り、ポスっとベッドに倒れ込む。
 風見先生の行動、発言に振り回されている。
 だけど、先生は私と向き合おうとしてくれている。
 前世のことを話しても、否定するどころか、良い方向へ考えてくれた。
 こんなこと、はじめてだ。優馬にだって前世のことは話せなかったのに。

「はぁぁぁ……」

 声にならない声を出す。
 とりあえず、優馬のことを片づけなくちゃ。これからの自分のためにも。

 次の日、出勤する。
 病院の中を歩いていても、風見先生と会うことはなかった。

 そうだよね。これまでずっと関わりのなかった人なのに。
 自分から会いに行ったりしないとなかなか会えるような人ではない。

 休憩時、スマホを見る。
 風見先生からも連絡はない。
 昨日、あんなことがあったからかな。なんか先生のことが気になっちゃう。だからこそ怖いんだ。
 心を完全に許してしまった時、信じてしまった時に、好きになった人が突然いなくなってしまう。
 心がぎゅーと苦しくなって、どうしようもない感情に支配される。

 傷つきたくなくて、自分を守ってしまうから、早々に次の恋愛になんて私はいけない。

 業務は無事に終わり、帰宅をするために社員用出口から出た時――。

「雫羽!」

 名前を呼ばれた。
 声の方向を見ると、優馬が立っている。

 どうしてここにいるの?
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