天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜
「無理です。そういう話なら、帰って。私はもうあなたのこと、信じられない。夏子さんの機嫌が悪いのは、ホルモンバランスの関係だよ。酷いようなら一緒にお医者さんへ相談するとかしなよ。赤ちゃんが可哀想」

 自分の夫が浮気してたんだから、余計に情緒も不安定になるよね。

「いやだ。雫羽!お願いだ。考え直してくれ」

 優馬は座りながら、頭を深く下げた。

「イヤです。ここには来ないで。もしまた来たらこっちも弁護士さんに頼むから」

 私はベンチから立ち上がり、優馬から離れ、歩き出した。
 夏子さんの前では保身に走って、私のことなんて一切気にかけてくれなかったのに。
 理不尽すぎる優馬に再び怒りが湧いてくる。
 さっきまで怒る元気もないって思ってたけど、あんなことを言われたら誰だって嫌な気持ちになるよね。気分が一気に悪くなってきた。

「雫羽!待って!」

 優馬に腕を取られ、引き留められる。

「っ。離してっ!」

 私が振り払おうとすると
「やめてくれませんか?」
 急に風見先生が現れ、優馬の腕をグイっと引っ張って離し、優馬との間に割って入ってくれた。

「風見先生っ?」

 風見先生、どうしてここに?

「迷惑です。雫羽はもう俺の彼女だから。あんた既婚者だろ?こんなことして、訴えますよ」

 先生は低く冷たい弱音で言葉を発しながら、鋭い目線を向けている。
 俺の彼女って、ウソ言っているけどいいのかな。

「っ……。雫羽」

 優馬は一言私の名前を呟き、泣きそうな顔をしている。

「あなたと話すことはなにもありません」

 風見先生のうしろから少し顔を出し、優馬に告げる。
 こんなにはっきりと言えば、彼だってわかるだろう。

「っ……。雫羽。ごめん」

 何か言いたそうにしていたが、優馬はそのまま去って行った。
 優馬が見えなくなり、フッと力が抜けた。あれ、またフラフラする。
 思わず、風見先生の腕に掴まってしまった。

「光藤さん、大丈夫か?」

 風見先生が私を支えてくれている。
 どうしよう、素直になった方が良いのかも。

「先生、また倒れそう。力が入らない」

「わかった」

「えっ」

 先生は私を軽々持ち上げた。
 あれ、私、先生にお姫様だっこされてる。
 そう感じた時、目の前が真っ暗になった。

<アニル様、やめてください。私、重いです>
<俺はそんなにひ弱に見えるのか?>

 ああ、これは昔の記憶だ。
 たしか、王都へ入る前、アニル様と知り合ったばかりの頃、二人で街へ出かけた。その時に私が足をくじいてしまって、アニル様が抱きかかえてくれたんだ。あの時、恥ずかしかったけれど、嬉しかったな。


 目を開けると、ベッドの上にいた。
 あれ、ここって。頭だけ動かし辺りを見渡す。ここ、うちの病室。
 しかもVIPルームだ。
 風見先生に抱えられた記憶があるから、先生が運んでくれたのかな。

 部屋には誰もいない。
 どうしよう。腕を見ると、点滴をされていた。どうすればいいんだろう。

 その時、病室の扉が開く音がした。

「起きたか?」

 風見先生が私の横へきて座り、顔を覗き込まれた。
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