天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜
「人の気持ちをわかろうとしない人が看護師だなんて、そっちの方がどうかと思いますけど」

 つい、言い返してしまった。
 宮下さんは何も言わず、私の後方を見つめている。

 誰かいるの?

 そう思い、私も振り返ろうとしたら
「宮下。幻滅した。仕事ができる子だと思っていたのに。影ではキツイこと言って、全く関係ないスタッフを困らせていたんだな。ハラスメントだぞ」
 私のすぐうしろに立っていたのは、風見先生だった。

「風見先生?」

 今の会話、聞こえてたんだ。
 宮下さんは風見先生に気づいて、だから急に言葉が止まったんだ。

 宮下さんは
「いや。これには事情があって」
 風見先生と目を合わそうとせず、床に向かって話しかけている。

「光藤さんに謝れ」

 ええ!謝ってもらわなくても結構ですけど。あとが怖いので。

「すみませんでした」

 私にはあんなに強気だったのに。
 風見先生から叱咤された宮下さんは、顔を赤くさせ帰って行った。

「風見先生。お疲れ様です」

 私がペコっと頭を下げると
「酷いこと言われていたみたいだけど。大丈夫か?途中から会話が聞こえた」
 眉が下がり、心配しているといった顔で私を見ている。

「慣れているので大丈夫です。宮下さんに言われたこと、本当のことだから。この病院には昔、お世話になったことがあって。誰かの役に立ちたいって気持ちと病院に携わりたいって想いで働いています。宮下さんからしたら覚悟が足りないなんて言われるかもだけど、私にだって想いはあるんです」

「ああ。それはわかってる」

 私は私のやり方でこの病院を選んだ。
 就職するために勉強だってした。宮下さんにバカにされる覚えはない。

「どうして風見先生がここにいるんですか?」

 先生まだ白衣を着ているし、こんなところで何をしてるんだろう。

「ああ。それは……」

 ばつが悪そうに頭を一度掻き
「光藤さんに会いたかったから。探してた。そろそろ帰る時間だろうなって」  
 目線を逸らしながら伝えてくれた。

「あっと……」

 私を探してくれていたんだ。風見先生が今のタイミングで来てくれて良かったかもしれない。宮下さんと言い合いになっていたところかも。

「先生がいてくれて良かったです。私、あのままだったら宮下さんと言い争っていたかも」

「いや。あれは宮下が悪い。あんな風にケンカ売るなんて」

 風見先生と少しだけラウンジで会話をすることになった。

「光藤さん、看護師の免許あるんだ。知らなかった」

 先生が私に温かい紅茶を買ってくれた。
 ありがとうございますと言いながら、いただく。

「はい。現場の経験も少しあります。だけど、その……」

 こんなこと風見先生に話してもいいの?

「どうした?俺、光藤さんのことなら受けとめるから」

 風見先生はまた優しい言葉をかけてくれる。

「前世で……。私、誰かに刺されてるんです。それが原因で死んでしまったみたいなんですけど。オペの時に患者さんの血を大量に浴びてしまった時、その時の記憶が蘇ってしまって。手が震えて、動けなくなっちゃって。それから怖くなって、現場に迷惑をかけるし、看護師は諦めたんです」

 先生は無言だ。

 さすがの風見先生だってやっぱり引くよね?
 前世のトラウマが原因だなんて、誰が信じてくれるんだろう。
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