天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜
「雫羽とずっと一緒にいたい。疲れる関係なんて嫌だろ?」

 ずっと一緒にいたいなんて言葉、久しぶりにアニル様と顔が重なっちゃった。だけど今は不快な気持ちにはならない。それはしっかり透空さんとアニル様を区別しているからだと思う。

「疲れる関係は嫌です」

 それは一致するから。

「無理に話題なんて作らなくてもいいから」

 柔らかな表情に思わず「はい」と返事をしてしまった。

 透空さんはこんなに歩み寄ってくれているのに、私は境界線を引いている。
 これ以上、彼の領域に踏み込んだら、きっと私は重い感情を抱いてしまう。その感情を抱いてしまうのが怖いんだ。
 どこかでまた「傷つく」ことを恐れている自分がいる。

「雫羽、危ない」

 透空さんが手を引き、人混みを避けてくれた。

「あ、すみません」

 何をやっているんだろう。

「ちょっと休憩するか?」

 彼は水族館の中にあるカフェで紅茶を買ってくれた。

「ありがとうございます」

 美味しい。

「美味しいです」

「人混み、疲れたか?」

「いえ。そういうわけではないです」

「じゃあ、どうしてそんなに暗い顔してんの?」

 さっき透空さんは気を遣う関係にはなりたくないと言っていたよね。

「私、怖いんです。また人を好きになるのが。自分が傷つくのが怖いんだと思います」

 こんなこと誰にも話したことはない。話すべきことじゃないかもしれない。きっと透空さんに嫌われた方が楽だって思っている自分もいるから、こんなマイナスなことばかり打ち明けちゃうんだろうな。

「俺はどこにもいかないよ」

「えっ」

「ずっと雫羽のそばにいるから」

 私が欲しかった言葉、こんなにもすんなりと聞けるなんて思わなかった。

「俺がどんなに本気なのか、どうしたら信じてくれる?」

 どうしたら?

「えっと。あの……」

 人がいっぱいて、賑やかなところだから私たちの会話なんて聞こえないと思うけれど。
 透空さんは恥ずかしくないの?

「考えておいて」

 彼は珈琲をゆっくり飲みながら、呟く。
 私、透空さんに何をしてほしいんだろう。
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