天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜
 水族館の観覧が終わり、透空さんが
「ショッピングモールの中でも歩こうか?」
 そんなことを提案してくれた時だった。

「きゃあっ!」

 遠くから悲鳴が聞こえる。
 どうしたんだろう。
 声がする方を見ると、高齢の男性が倒れている。

「おじいちゃん!」

 子どもが必死に肩を叩いているのが見えた。

「雫羽、ごめん。行ってきてもいい?」

 透空さんは私の手を放し、病院にいる時の顔つきをしている。

「もちろんです!」

 私が答えると先生はうなずき、男性の元へ走っていく。
 私もすぐあとを追う。
 人だかりができている。
 十歳くらいの子どもは泣いていて、パニック状態だ。倒れている男性は顔面蒼白で、うめき声をあげている。
 意識はあるみたいだけど、とても具合が悪そう。

「どいてください。医者です」

 透空さんは男性を見て
「雫羽、救急車呼んで!」
 私に指示を出した。

「はい!」

 スマホで119番にかけ、状況を伝える。

「大丈夫ですか?どこか痛いんですか?」

 先生が男性に声をかけると、男性は腹部を押さえていた。
 その時、男性が「ガッ」と吐血した。

 血が飛び散る。
 たくさんの血……。
 頭が真っ白になる。
 あの時、前世の自分にナイフが刺さっていた時の血が噴き出る感覚が……。
<どうしたんですか?状況を教えてください>
 男の子の鳴き声やスマホから聞こえる声、ザワザワとした周囲の雑音、すべてが聞こえなくなる。

「雫羽!大丈夫か?」

《《風見先生》》が私を揺らしている。

「血が見えないところに行くぞ!」

 先生の声だけ聞こえるなんて、不思議。
 血がトラウマだってこと、覚えていてくれたんだ。
 それにこんな状況なのに、かばってくれている?
 私を引っ張って、血が見えないところに行こうとしてくれているの?

 視界に入った男の人は苦しそうで、男の子は泣いているのに、私、何をやってるんだろう。風見先生の足を引っ張って。
 誰かの役に立ちたくて、病院に残るって決めたんじゃなかったの?

 私は深呼吸をし、思いっきり自分の手のひらを握った。

「雫羽!?」

 それを見ていた風見先生が驚いている。

「先生、大丈夫です。すみません。迷惑をかけて。患者さん、横にしましょう。吐血してるから、気道を確保しなきゃいけないですよね」

「……。無理するなよ」

 先生は一度腕を持った私から離れ、患者さんの元へ戻る。
 二人で体制を横にさせた。

「すみません!手袋とかありますか?使い捨てのもので良いです!」

 先生が声をかけている。

「今、持ってきます」

 どこかの店員さんが慌ててお店に戻っていく。

「雫羽、電話代わって。俺が救急に伝えるから」

「わかりました」

 救急への電話を先生に代わってもらい、私は泣いている男の子に声をかける。

「大丈夫だよ。おじいちゃんと二人できたの?」

 大丈夫、大丈夫と声をかけていると
「うんっ」
 男の子は返事をしてくれた。

「おじいちゃん、何か病気にかかったことある?」

 十歳くらいの男の子、聞いても平気かな。

「っ……。わかんないっ……」

 そうだよね。
 そうだ、このくらいの年齢の子なら
「お母さんとかおばあちゃんの電話番号知らない?電話、持ってないかな?」 
 もしかしたらキッズ携帯くらい持っているかもしれない。
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