天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜
「抱きしめられるの、イヤ?」

 あ、透空さんの息が首筋にあたった。

「あの、イヤじゃないけど。ドキドキします」

「イヤじゃないならいいよな。こうしてても」

 透空さんは私を離してくれないどころか、チュッと首にキスをしてきた。

「ちょっと!透空さん」

 唇の感触が残る。私は彼にしがみつくことしかできない。

「可愛い」

 耳元で囁かれる言葉。彼の低温ノイズが耳に残る。

「ごめん。余裕なくて」

 彼は私に覆いかぶさるようにソファの上で倒れてきた。

 これは、押し倒れている。
 だけど透空さんは何もしてこない。
 私の上に跨り、頬と頬を合わせているだけだ。
 
 約束、守ろうとしてくれているんだ。
 忠犬のように思えてきて、なんだか愛おしくなる。

 思わず、透空さんの背中をギュッとしてしまった。

「約束、守ろうとしてくれているんですか?」

 私がトントンと背中を叩くと、彼は、コクっと一度だけ頷いた。

「雫羽に信じてもらいたいから。約束は守る。だけど、まだお仕置きはしてないから……」

「えっ」

 彼はすっと身体を起こし、横になっている私をそのまま持ち上げ
「きゃあ」
 寝室へと移動した。

「透空さん!何をするっ」

 彼は私を優しくベッドの上に降ろし
「今日は俺と一緒のベッドで寝ること」
 そう言って、大きく息を吐いた。

<寝る>の意味に、私が考えている大人の関係は含まれているんだろうか。

「心から好きになったのは、生まれてからこれまで雫羽だけなんだ。恋愛の仕方がわからない。雫羽のこと大切にしたいのに、独占したくなるし、もっと触れたくなる」

 透空さんの本心が聞けてなんだか嬉しい。

「俺にとって今一番怖いのは、雫羽がいなくなること。だから嫌なことはしないっ……」

 私がいなくなるという言葉を聞いた瞬間、久しぶりにズキンと頭痛がした。  
 これは前世の記憶が蘇ったりする時に起きる事象。
 だけど思い出せない。

「どうした?雫羽!?」

 目を押さえながら固まっている私を心配して、透空さんは心配してくれている。

 あれっ、映像が頭の中に流れてくる。
 白黒で古い映画のような、ノイズ音も酷くてはっきりはわからないけれど
<ディヤ!死なないでくれ。俺の前からいなくなるな!>
 これは前世の記憶で、アニル様が血を流している私に声をかけているところだ。

 あれ、どうして?
 私って、最後は一人で死んでしまったはずじゃ……。

 私が息絶えようとした時、アニル様が来てくれた記憶なんてない。
 もしかしてこれ。私の意識がすでに失った、死後直後のこと?

「雫羽!!」

 透空さんの言葉にハッと我に返る。

「大丈夫か?」

「すみません……。前世のことを思い出しちゃって。今までになかった記憶を……」

 こんなこと言ったら、透空さん困るよね。
 彼にはわからない、想像もできない世界の話だもの。
 信じられないような話、いい加減、嫌われちゃうんじゃないかな。

「落ち着け。大丈夫。俺がいるから」

 彼は背中をさすってくれ、肩を抱いてくれた。
 こつんと彼の頭が私の頭にぶつかる。
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