天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜
 次の日、いつも通り出勤をする。
 先日開催された病院全体での食事会の時、片づけもしないで帰っちゃったから、すぐに係の先輩たちへ謝りに行った。

「すみませんでした」

 同じ係だった先輩たち二人に頭を下げる。

「良かったらこれ、食べてください」

 事前に買ってきたお菓子を手渡した。

「いいの、いいの!気にしないで。て言うか、テーブルとか椅子は全部ホテルの人が片づけてくれたし、私たちはただ最後まで残って、忘れ物がないかとか、そんな簡単な見回りをしただけだよ」

「そうそう。それに、逆に風見先生にタクシー代とか言って、もらっちゃったから、こっちこそ申し訳ないと思っている。今時あんなにタクシー代くれる人なんていないよ。ありがたく受け取っちゃった」

 アハハと笑っている先輩たちは、怒っていないようだ。
 困ったこともなかったみたいだし、良かった。

 透空さん、お金まで渡して配慮してくれていたんだ。
 私には黙っていたのに。あとでお礼言わなきゃ。
 お昼は一緒に食べられそうかな。お弁当、作ってきたから。時間が合えば一緒に食べたい。

 お昼休憩時、スマホを見ると透空さんから返事がきていた。

<時間合うなら一緒に食べよう>

 私は、透空さんと約束をしているラウンジへ向かう。
 珍しく先に来ていた透空さんが軽く手を振ってくれた。

「お疲れ様です」

「お疲れ」

 最初は人目を気にしていたけど、今ではあまり気を遣わなくなった。
 噂にはなっているようだけど、宮下さん以外からは特に嫌がらせのようなことは受けていない。

「誰と付き合っていようと関係ない」

 透空さんはいつもそう言ってくれる。

「雫羽。今日、この間、ショッピングモールで助けた患者さんがうちに転院してきた。俺を指名してくれたみたいで」

「えっ、そうなんですか」

 知らなかった。そんな話、事務室では聞いていない。

「さっき会ったけど、たくさんお礼を言われたよ。彼女さんにもよろしく伝えてくれって言われた。お孫さんが雫羽の言葉に励まされたらしくて。子どもにとっては衝撃的な現場だったけど、トラウマにはなっていないみたいだ。逆に医者になりたいって言って、勉強を頑張るようになったって家族も喜んでた」

「そうなんですね。心に傷ができなくて、良かった」

 的確な対応を透空さんがしてくれたおかげだ。
 こうやって人を助けている透空さんってすごいな。尊敬する。

「あ、透空さん。この間、私が帰る代わりに、タクシー代を先輩たちに渡してくれたみたいで。すみませんでした」

 先生は、ああと思い出したかのように呟くと
「別に大したことしてない。雫羽と一緒に過ごす時間を作れた方が金より価値があるから。今日の弁当も美味い。ありがとう」
 先生にとっては普通のことでも、お金より価値のある時間って、嬉しいことを言ってくれる。

 ああ、こういう時間っていいな。
 この間、透空さんが対応した患者さんの話を聞いて嬉しくなったのもあるけど、忙しい時間の中でも会えることができて、作ったご飯を美味しいって言ってくれる人がいて、こういうのを幸せな時間って言うんだろうな。

 口角を上げると
「どうした?良いことでもあったのか?」
 透空さんまで表情が柔らかい。
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