天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜

2人の前世(アニルside)

「アニル様、側室の一人が何者かに刺され、危篤状態にあるとのことです!」

 バタバタと慌てて部屋に入ってきた従者が息を切らしている。

「誰だ!?敵か?」

 こんな時間に、侵入者がいるのか。
 夜更けを狙って王宮が何者かに狙われた?
 眠ろうとし、横になっていたが、起きてすぐに警備隊へ指示を出そうとした。

「いえ。それが侵入者は一人のようで。警備で探していますが、今のところ被害は側室一人が刺されているだけだと……」

 側室同士の仲違いか?
 いや、そんなことよりぞわっと冷たいものが背中が流れた。

「その側室とは、誰だ?」

「……ディヤ様です」

「まさか……」

 俺は身なりも整えず、側室たちがいる居室へと向かった。
 人だかりの中で倒れていたのは
「ディヤ!」
 顔が真っ青になった心から愛している女性だった。

「ディヤ!おい、しっかりしろっ」

 目は薄っすらあけているが、応答がない。
 ぴくりとも動かない。血が大量に流れている。

「ディヤ!起きてくれ!頼む!医者はいるか!?」

 辺りを見渡し、医者を呼ぶように指示を出す。
 みな、目線を逸らすだけだった。

「ディヤ!ディヤ!本当にお前のことを愛しているんだ。一人にさせてすまないっ!起きてくれ!」

 俺の声かけに彼女は少しだけ唇を動かした。

「どうしたっ?」

「アニル……、さま……。愛して……います」

「俺も愛してる」

 彼女の肩をギュッと抱きしめる。

「一人では逝かせないから。絶対に……」

 まだ温かい彼女は、ポロリ一粒の涙を流し、次第に冷たくなり、身体は硬直していった。

 俺はその夜、ずっと彼女の亡骸を抱え過ごした。
 
 それからは、彼女を殺した犯人を捜すことだけに労力を注ぎ込んだ。

「許さない」

 政務など取り組む気になれない。犯人を捕まえて、同じ目に遭わせてやると決めたが、夜更けともあり、誰もその姿を見た者はいなかった。
 ただ、警備の者の話では、侵入された形跡はない。
 それに彼女を刺したであろうナイフは王宮で使っていたもので、内部の者の犯行ではないかという見立てだった。

 俺がここへ連れてきたから、ディヤは死んでしまった。
 普通の舞子として生活をしていれば、襲われることもなかっただろう。
 
 毎日が自責の念にかられた。

 犯人捜しに明け暮れていた毎日で、王族としての政務もこなさない俺は、次第にみなから不信の目で見られるようになり、階級を下げろと言う者まで現れた。

 ディヤがいなくなった世界は、毎日が暗闇の中で歩いているような感覚で、生きる意欲、楽しみもない。

「ディヤ。すまない。今世では幸せにしてやれなかった。来世では絶対に幸せにするから。また会おう」

 俺はディヤの墓の前で毒を飲み、そのまま死んだ。
< 77 / 90 >

この作品をシェア

pagetop