天才外科医からの求愛〜傷跡ごと甘く癒されて〜

前世の記憶/彼女が忘れてしまったもの

 どうして今頃になって思い出すんだろう。
 ベッドで寝ている雫羽の手を握りながら、雫羽が運ばれてきたあの頭痛の瞬間にすべて思い出したことを考えている。

 雫羽の手術は無事に成功した。
 階段の上から転倒したことで、頭を打っていて、脳を圧迫する出血が見られたため、血種を取り除いた。

 手首と肋骨の骨折は、固定手術を行った。あとはこまかい傷がたくさんあったが、命に関わる傷ではない。
 問題は頭を打ったことによる、意識障害がどれだけ残るかだ。
 前世でも辛い思いをさせてしまったのに。
 
 まさか、雫羽が憎んでいる相手が《《前世の俺》》だったなんて。
 雫羽に伝えたら、嫌われてしまうだろうか。 
 その日、彼女が起きることはなかった。

・・・
 二日後――。
 目を開ける。ここは……。
 真っ白な天井が見えた。
 自分の部屋じゃない。頭がふわふわするし、なんだか身体が鉛のように重く、動かない。
 私、どうしちゃったんだっけ。
 思考をめぐらす。
 そうだ。私、駅の階段から突き飛ばされて……。それで……。
 それからの記憶がない。

 ここは病院?
 私、この病院で働いているよね。
 この病室の感じとか、見たことがある気がする。

 だんだんと意識を取り戻していく。
 首を横に動かすと、男性が座って目を閉じている。
 この人、どうしてここにいるの?

「《《高木先生》》……。先生……?」

 私が声をかけると
「えっ?雫羽ちゃん、起きたの!?」
 眠っていたわけではなく、彼はただ目を閉じていただけみたいだ。

 バッと目を見開き、私の顔を覗き込んでいる。

「良かった。本当に良かった」

 高木先生は包帯が巻かれている私の手を握ってくれた。
 どうして高木先生がここにいるの?
 私、起きてから何か変。
 何か忘れちゃいけないことを忘れてしまったような気がしてる。
 大切な何かを……。
 何かが足りない、そんな感覚、空虚感。なんだろう。

「ちょっと待ってて。呼んでくるから?」

 高木先生は、にこっと笑うと、病室から出て行った。
 呼んでくる?
 誰を呼んでくるんだろう?

 そんな疑問を感じながらも、深く息を吸う。
 私、生きている。良かった。

 点滴で繋がれている。
 身体はゆっくりじゃないと動けそうにない。
 骨とか、折れているのかな。
 ぼんやりとそんなことを考えていたら、病室のドアがガラッと開いた。
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