側妃マリアの謀

 
 お父様から返答があった。
 セレニア皇国次第では、手を結んでも構わない、という旨の回答だった。
 この回答は、モントヴァルト王家にのみ教えられている暗号によるものなので、この手紙をもし第三者が目にしたところで、誰も暗号の内容には気付きもしないだろう。
 私はマチルダ様からいただいたメッセージカード同様に、それを引き出しにしまった。
 あとは、セレニア皇国がどう出るか。
 そして、アルヴィン卿の根回しがどれほど成功するかにかかっている。
 (国王の退位を望むには、少なくとも貴族院の過半数の票が必要になる)
 貴族院の席は、全部で百四十五席。
 そのうち、陛下の政治を支持する国王統治派が過半数を占めているのが現状だ。その筆頭貴族が、セラフィーナ様の実家であるシャッテンヴァルト公爵である。
 (だけどその国王統治派も決して一枚岩ではない)
 派閥内でも意見が対立しているところを見るに、付け込む隙はあるはず。
 (アルヴィン卿の助けになりたいけれど、こればかりは手を出しようがない)
 私が関わることで、私とアルヴィン卿の関係を邪推されても困る。モントヴァルト王国による乗っ取りだと疑心暗鬼になられても困る。
 これは、現国王陛下の弟君である父を持つアルヴィン卿にしかできないことだ。私に出来るのは、彼が根回しをしやすくするように環境を整える手助けくらい。
 (……モントベルク伯爵は、国王統治派所属でシャッテンヴァルト公爵家とも深い交友関係がある、けれど)
 私が嫁いですぐ、夫人と令嬢を派遣したからには、モントベルク伯爵には何かしらの思惑があるはず。
 モントベルク伯爵家は歴史こそ古いものの、家計は厳しそうだと私は予測を立てていた。それは、夫人のドレスやご令嬢の言葉の端々から感じられたことだ。
 恐らく、借金をするほどまではないけれど、先行きに不安を感じているはず。
 それも、近年になって陛下が重鎮の貴族を優遇する法案を取り入れたため。
 さらに陛下は、その優遇に拍車をかける法案の制定を考えているという。このままでは、貴族間の格差はさらに広がるだろう。
 そうなれば、モントベルク伯爵家としては、このまま陛下の即位が続くのはあまり喜ばしいことでは無いでしょう。
 陛下に重宝されているシャッテンヴァルト公爵はともかくとして。
 (モントベルク伯爵の名前は大きい。彼を取り込むことができれば、情勢は大きく動く)
 モントベルク伯爵の考えはわからない。だけど、できることはある。
 (モントベルク夫人とのお茶会で、彼女の思考を誘導する)
 今のアルヴィン卿には、彼の即位を支持する貴族が必要だ。そして、そのために私ができることは、彼に味方を送り込むこと。
 ただし、決して私がアルヴィン卿の支援者だと気付かれてはならない。
 タイムリミットまで、あと半年。
 夏は終わりを迎えつつあり、秋になれば豊穣祭がある。その後は、聖夜祭。
 そして、その次の春を迎える祝賀祭こそが、決戦の場。そこで、全てを終わらせる。
 私は自室のライティングデスクの前に座りながら、新たな便箋を取りだした。宛先は、モントベルク伯爵夫人。以前おすすめしていただいた小説を読んだものですから、ぜひ、意見交換会をしたい、という旨の文章を認める。
 怪しまれてはいけない。まだセラフィーナ様に気付かれる訳にはいかないのだから。
 
 
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