側妃マリアの謀

 
「──ですから、ぜひ、マリア様もモントベルク領にいらっしゃってくださいな。きっと、ご満足いただけると思いますわ」
 その言葉に、ハッと現実に引き戻される。
 (そうだった、今は聖夜祭の最中)
 アルヴィン陛下と入場した後、モントベルク伯爵夫人とその令嬢が挨拶にきて、三人で話していたところだった。
 先程のあれは、何だったのだろう。髪に口付けを落として……あれは、どう見ても。
 愛の告白に他ならなかったように思う。アルヴィン陛下は、ほんとうによく分からない。ここで照れるの? というところで照れてああいったセリフはあっさり口にできてしまうのだから。
 思い出すと、また頬が熱を持つ。考えないようにしながら、私はモントベルク伯爵夫人と何の話をしていたのか記憶をたどった。
 (そうだわ、モントベルク領の食事が美味しいという話だった)
 海が近いので、魚料理が名物らしい。
「では、機会があればぜひ。その時は案内してくださいませね」
「ええ、もちろん!」
 モントベルク伯爵夫人がにこやかに笑う。以前の彼女には影があったけれど、今は健やかそうだ。
 モントベルク伯爵は、元は国王統一派で、シャッテンヴァルト公爵寄りの人間だった。けれど、前国王陛下が始めた政策で損害を被ったことにより、アルヴィン陛下につくことを選んだのだ。
 アルヴィン陛下は、前国王陛下が導入した一部の貴族のみを優遇する政策を緩和した。そのことで、家計が苦しくなりつつあったモントベルク伯爵家も立て直すことができたらしい。
 モントベルク伯爵は、アルヴィン陛下の強い味方となったようで、話しているところをよく見かける。アルヴィン陛下の妃になるのやらモントベルク伯爵夫人との交友は持っておいた方がいいだろう。そう思い、彼女と話していると、背後から声が聞こえた。
「マリア。ここにいたのか」
 アルヴィン陛下は、人前だと砕けた話し方になる。これは、私が進言したことだった。
 アルヴィン陛下は、私と話す時はいつも丁寧な物言いをするけれど、王の腰が低いと思われるのははよくない。
 振り向くと、そこにはアルヴィン陛下と、モントベルク伯爵がいた。
「モントベルク伯爵夫人と、お話をさせていただいておりました。美味しい魚料理が楽しめるとお聞きしました。いつか、行ってみたいものですわ」
 私の言葉に、モントベルク伯爵がおおっ、と声を上げる。
「そうなのですよ! ぜひ、マリア様もいつかお越しください。新婚旅行にいかがですか? わははは」
 モントベルク伯爵は軽快に笑ってみせる。それに、夫人がころころと笑った。
「新婚旅行なら、外国に行かれませんと。マリア様の母国であるモントヴァルト王国や、ご家族のいらっしゃるルナリア王国も、よろしいのではありませんか?」
 夫人の言葉に、私とアルヴィン陛下は顔を見合せた。それから、どちらともなく微笑む。
 私もアルヴィン陛下も、その立場から国を離れることはできない。新婚旅行が、最初で最後の機会となるだろう。
 それが分かっているからこそ、夫人はそういったのだと思う。
「それにしても、おふたりともとても端正な顔立ちをされていらっしゃいますから。今からお子の顔が楽しみでなりません」
「──……」
 その言葉に、私はそっとアルヴィン陛下に目配せをする。
 (子供……)
 私とアルヴィン陛下は結婚するのだから、その立場上とうぜん子供を求められる。もし、私とアルヴィン陛下の間に子が出来れば。その子が男の子なら、王太子となるだろう。
 (そうなれば、ルンハルトはどうなる?)
「私とマリアの子なら、既にいるな」
 アルヴィン陛下の言葉に、モントベルク伯爵がエッ? という顔をする。夫人も同様で、目をしきりに瞬いていた。
 私も、笑みを浮かべて同意する。
「そうですわね。既に、可愛い息子がおりますの」
「えっ……。で、ですがマリア様は、あの」
 前国王陛下の妃だったはず、と言いたいのだろう。このままでは、あらぬ誤解を招いてしまいそうだ。早いところ答えを口にした方がいいと判断し、私はさらに言った。
「前国王陛下とセラフィーナ様のお子ですわ。陛下と話し合って、養子に、と決めましたの」
「前国王陛下と、セラフィーナ、様……?」
 唖然とした夫人が、その名前を繰り返す。
 このような場所で、久しぶりにセラフィーナ様の名前を聞いた。彼女はシャッテンヴァルト公爵の悪事に関与していないことがわかると、
 公爵家の遠縁に引き取られた。
 ルンハルトの暗殺計画と脱税という二重の罪に、シャッテンヴァルト公爵家は取り潰しが決まった。セラフィーナ様はもう、貴族の身分ではない。
 彼女は縁故のある商家に引き取られたものの馴染めず、孤立したという。そしてついにはその商家からすらも追い出され、王家の寄付で成り立つ修道院へと身を寄せることとなった。
 アルヴィン陛下としても、知らないところで悪巧みをされるより、目の届くところに置いておきたいという思いなのだろう。
 今後、セラフィーナ様がルンハルトを利用しないとも限らない。だから、アルヴィン陛下はその前に対処できるように王家が運営する修道院にセラフィーナ様を入れたのだと思う。
「前国王陛下とセラフィーナ様のお子、といったら……」
 そこで、モントベルク伯爵夫人は、思い出したのだろう。忘れ去られた王子の存在を。
 そして、今日がその王子の誕生日で──つい昼間、誕生祭を行ったばかり、ということも思い出したに違いない。
 アルヴィン陛下に目配せすると、彼が微かに頷く。
 そして、響く声でホールに告げた。
「ちょうどいい機会だ。みなに告げる! 先日、私は養子を取った。ルンハルトだ」
 ホールがざわめいた。
 驚きに息をのむもの、うんうん、と頷くもの。その光景は、祝賀祭を彷彿とさせる。
 あの時、夜遅くにアルヴィン陛下が尋ねてきた時のこと。彼はこういった。
 『あなたは、ルンハルトの母になる気はありますか?』
 あれはつまり、アルヴィン陛下と結婚し、ルンハルトを養子に貰わないか、という相談だったのだ。私に務まるのか、そもそも、ほんとうに私でいいのか──。
 不安はあったけれど、それもルンハルトの顔を見て、吹き飛んだ。
 私が、母になるのだ。ルンハルトの。
 経験不足だし、子育ては専門外だけれど、それでも。
 私が守りたいのだと、そう思った。
 ルンハルトの母になるなんて、考えもしなかったし、思いつきもしなかった。『私がお母様になってあげる』なんて烏滸がましいにも程がいるからだ。ルンハルトの意思もある。
 それに──私には、母になった経験がない。
 私にあるのは、姉様との記憶だけで、それをなぞっているだけに過ぎないと気がついた時、とても怖くなった。私は、姉様のふりをしているのだろうか、と恐ろしくなったからだ。
 そうやって、ゴチャゴチャ考えていた時。アルヴィン陛下から聞かれたのだ。
 『あなたは、ルンハルトの母になる気はありますか?』と。
 『私が、お母様になったらルンハルトは嬉しい?』
 それでも、勇気が持てなくて、ルンハルトに尋ねてしまった。それを聞いた時、あの子はとても──とても。信じられない、という顔をした。まるで、夢が叶ったような、雲が綿菓子になって、それを頬張ったかのような、そんな顔をしたのだ。
 その時のことを思い出して、胸が引き絞られる。私はきっと、あの子のあの時の顔を、一生忘れることはないだろう。
 その後、アルヴィン陛下は正式にルンハルトを養子にするための届けを出した。それが受理された今、ルンハルトは既にアルヴィン陛下の子供だ。
 アルヴィン陛下と結婚したら、ルンハルトは私の子になる。先程のアルヴィン陛下の言葉は、少し早いけれど来春にはそうなるのだから、という意味なのだろう。
 アルヴィン陛下は、変わらず落ち着いた声出続けた。
「私はルンハルトを王太子に指名する」
 それに、驚きの声があちこちから聞こえてくる。
 赤目だからと反対するひとはもういない。なぜなら、今の王が赤目だからだ。
「私とマリアに今後、子ができてもそれは変わらない。聖なる夜に誓おう。次期王は、ルンハルトだと!!」
 アルヴィン陛下が宣言すると、ワアと場が盛り上がった。
 ──やはり、アルヴィン陛下はカリスマのあるひとだ。
 彼は、ひとを魅了する空気を持っている。アルヴィン陛下は、場の空気を操るのが上手なひとだ。彼は、私と目が合うと、ほかのひとには気付かれないように片目を瞑って見せた。うまくいった、ということなのだろう。
 それに、私も笑みを返そうとして──上手く微笑めなかったことに気が付いた。
 (どうしてかしら)
 今になって先程の、アルヴィン陛下が迎えに来てくださった時のことを思い出してしまう。
 『早く、私を好きになってください』
 アルヴィン陛下を見ていると、頬がじわじわと熱を持つ。彼が何かあったのか、と問うように私を見るので、思わずパッと顔を逸らしてしまった。あからさますぎる、と反省する。
 (でも……)
 こんなことは初めてで、落ち着かない。
 どうしよう。上手く、彼の顔が見られない。あの赤い、ルビーのような瞳を見ていると、どうしようもなく、落ち着かなくなるのだ。
 彼の、私を見る目はとても優しくて……私を、想ってくれているのが分かるから。
 ☆
 
 春になり、私とアルヴィン陛下の結婚式が執り行われた。
 天気は幸いにも晴天。抜けるような青空に、暖かな日差し。
 『天候に恵まれて良かったです! さっすがマリア様!』と今朝、ダリアが満面の笑みを浮かべて言っていた。
 私のおかげである可能性は限りなく低いだろうけれど、私自身、天候のいい中結婚式を挙げられて良かったと胸をなで下ろした。
 アルヴィン陛下との結婚式は、王都教会にて執り行われる。
 祭壇の前で足を止め、アルヴィン陛下をちらりと見る。
 以前の結婚では、式を挙げなかった。
 署名のみで完結した、質素でシンプルなもの。
 それはマチルダ様も同様だったようで、前国王陛下は、セラフィーナ様を娶る時のみ盛大に結婚式を挙げたそうだ。
 シャッテンヴァルト公爵の強い意向だったそうで、セラフィーナ様が正妃に近い存在であると知らしめるためのものだったのだと、後にアルヴィン陛下から聞いた。
 そして、前国王陛下だけれど、彼の身柄は解放され、今は辺境の地にて療養(・・)している。というのも、独房に入れられてから、前国王陛下は病を得てしまったらしい。元々食生活が乱れていたひとではあったけれど──。検査したところ、全ての数値が平均値を大きく上回り、重症であることがわかった。
 発覚した時には既に手遅れだった。失脚したことで気力を失ったのも、大きく病の進行を助けたらしい。
 時折耳にする報告では、陛下は幻影と幻聴に悩まされ、夢と現を行き来するような状態で、まともに眠ることすらできないという。
 夜は特に、誰かに怯えることが多いらしい。その誰かというのは、ひとりではない。いつも名前が違うらしい。
 (まったく、どれだけの悪事に手を染めてきたのかは知らないけれど……)
 身から出た錆、というのだろうか。
 陛下とはあまり食事を一緒にとらなかったけれど、国王と側妃が揃う晩餐会で見ただけでも、陛下の食事には問題がありそうだとは思ったのだ。
 顔を上げると、ステンドグラス越しにきらきらとした光が差し込んできた。
 前国王陛下と結婚式を挙げなかったことについて、私自身は特に何も思わなかった。それに不満を持つほど前国王陛下に惹かれていたわけでもない。セラフィーナ様を与して、正妃の座を狙っていたわけでもない。
 (そういえばあの時も、ダリアとエラがすっごく怒っていたっけ)
 今になって、私は前国王陛下に感謝している。
 なぜなら、彼と式を挙げなかったからこそ、今私は、初めて結婚する新婦のような気持ちで、ここに立つことができる。
 カズラを纏った司祭様が、高らかに声を上げる。
「では、今この時より第三十八代エリセリュン王国国王アルヴィン・エリセリュンとマリア・エリセリュン・モントヴァルトの結婚式を執り行います。女神様に祈りを」
 司祭様が目を瞑り、女神様に祈る。
 これもエリセリュン王国の大切な儀式のひとつで、私もまたまつ毛を伏せ、女神様に祈りを捧げた。
 聖歌が斉唱され、司祭様が聖書を読み上げる。
 それをこころ新たな気持ちで聞きながら、私はその時を待った。
 (アルヴィン陛下は、即位するにあたり、いないもの(ルア)の名を返上した)
 アルヴィン・ルア・エリセリュン。
 以前聞いた彼のフルネームは、今はアルヴィン・エリセリュンのみだ。それは、彼が王族籍に戻ったことを意味している。
 エリセリュン王国の王位継承権の扱いは少し特殊で、王族籍を抜けた際、その時の王が代替わりするまで王位継承権は有効、という法が存在する。これは教会の上層部であったり、古くから仕える貴族の一部しか知らないことらしいが──遠い昔、王位継承権を巡り、熾烈な争いが起きたことが何度かあったらしい。
 そうした悲劇を繰り返した上で即位した、ずいぶん昔の王が王族籍と王位継承権は別物だと明記したのである。王位継承権はすぐに放棄できるものではなく、王の御代が次の代となった時に初めて執行する。そういった王国法が制定されたのだ。
 唄うような司祭様の声が止まる。聖書の読み上げが終わったのだ。やがて、工程は次のプログラムへと移行した。
「新婦マリア・エリセリュン・モントヴァルト。あなたは、エリセリュンの国母となり、エリセリュンを見守り、時には助け、慈しみ、愛おしみ、哀れなる時もそばにいると誓いますか?」
「はい」
「国王アルヴィン・エリセリュン。あなたは、国母となるマリア・エリセリュン・モントヴァルトと助け合い、励み合い、互いを尊重する創世神と女神のごとく関係を築くでしょう。そのためには、不変な世はあってはなりません。常に変化を求め、受け入れる変転流転の世を作ることを誓いますか?」
 女神は不変不朽を嫌う。
 永久のものなど存在しないのだ、というのはエリセリュン王国に伝わる女神神話の有名なセリフだ。
 司祭様のお言葉に、アルヴィン陛下が顔を上げる。彼はハッキリとした声で、誓った。
「誓います。私はエリセリュンも、隣にいる彼女も、慈しみ、愛することを誓いましょう」
「──」
 予定とは異なるアルヴィン陛下の返答に動揺したのは私だけのようだった。司祭様は、おや、という顔をしただけで、その顔には柔和な笑みが浮かんでいる。
「よろしい。今ここに、エリセリュン王国の王は妃を娶られ、国王ご夫婦が誕生したことを明言いたします」
 ワッ、と招待客の拍手が響き渡る。
 それが収まると、司祭様が言った。
「では、指輪の交換を。……リングボーイは、ルンハルト王子殿下が務められるとのことです」
 その時、背後の両開きの扉か開かれる。
 現れたのは、白い礼装服に身を包んだルンハルトだ。彼は、とても緊張していたようだけれど、顔を上げて私とアルヴィン陛下を見ると、勇気が出たらしかった。きゅ、とくちびるを引き結び、ルンハルトが先程私が歩いてきたバージンロードを進む。
 今回、私とアルヴィン陛下の結婚式を執り行うにあたり、私はリングボーイの提案をした。
 エリセリュン王国には、古くからリングボーイという風習がある。幼い男の子が結婚指輪を運ぶのだ。私は、この結婚式にどうしてもルンハルトに参加してもらいたかった。
 私は、アルヴィン陛下とだけ家族になるのではない。ルンハルトとも、家族になるのだ。だから、彼も式に参加して欲しかった。
 ただしそれは招待客としではなく、主役のひとりとして。
 ルンハルトは神妙な面持ちで、指輪を運んできた。
「ありがとう」
 アルヴィン陛下が礼を言い、指輪を受け取ろうとする。トラブルは、その時起きた。
 指輪が落ちそうになったのだ。アルヴィン陛下が台座から指輪を抜き取り、少しタイミング早く、ルンハルトが後ろに下がってしまった。
 宙に浮く形となった指輪は、このまま床に落ち──
「っ……!!」
 
 目を見開く私の前で、パシ、とアルヴィン陛下が指輪を掴んだ。それは一瞬の出来事で、そして招待客たちは、ルンハルトの姿でそれは見えなかったようだ。
 結婚指輪を落とすなど、縁起が悪いどころの話ではない。
 これまでのアルヴィン陛下の努力も水泡に帰すだろう。アルヴィン陛下の失敗は、必要以上に悪く言われるはずだ。
 なぜなら、アルヴィン陛下は赤い目をしている。今は話題性とアルヴィン陛下のカリスマ性に呑まれて、悪くいうひとはいないけれど。
 昔からの考えはそう簡単に変わらないものだ。
 それこそ、何百年と続いてきた思い込みなのだから。ひとの悪意から始まった、偏見。
 アルヴィン陛下が指輪を掴み取ってくれてよかった。ホッとする私に、アルヴィン陛下が笑う。
「思わぬハプニングでしたね」
「……びっくりしました」
 小声で会話を交わす。ルンハルトを見れば、自身の失敗が結婚式をだめにしそうになったと気付いたのだろう。その顔は青ざめていた。
「……アルヴィン陛下」
 私はそっと、アルヴィン陛下に耳打ちをした。
 司祭様には全て見られているだろうけれど、構わない。指輪を落とさなかったならそれでいいのだ。
「──」
 私の提案に、アルヴィン陛下は目を見開く。
 聞こえなかったのだろう。ルンハルトが首を傾げた。
「お願します」
 最後にそう言うと、アルヴィン陛下が困ったように笑った。ため息を吐き、彼がルンハルトを呼ぶ。
「ルンハルト」
「はい……」
 指輪を運ぶ台座を持ちながら、ルンハルトが答える。それに──アルヴィン陛下が、突然ルンハルトの前に屈んだ。
 予定外のアルヴィン陛下の行動に、招待客がどよめくの。
 アルヴィン陛下は、そのままルンハルトを抱き上げた。この距離だ。
 司祭様は、先程私がアルヴィン陛下に耳打ちした話を聞いている。
「では、指輪の交換を」
 こんなの、前代未聞かもしれない。
 だけど、それを言うなら国王の代替わりだって突然で、あまり例がある話ではない。そして、赤い目の王が即位したのもきっと、前代未聞だ。
 それなら有り得ない王様に、有り得ない結婚式で、とことん、私のやりたいようにしようと思ったのだ。幸い、ここにはそれを批判するひとはいない。
 (頭の硬い大臣あたりは、後でチクリと言ってくるでしょうけれど)
 それくらいだ。
 私は一歩、足を踏み出した。ルンハルトを片手で抱き上げたアルヴィン陛下が、私の左手の薬指に指輪をはめる。
 これも、以前にはなかったこと。金色に煌めく指輪を見ながら、私は微笑んだ。
 突然のことにルンハルトは目を白黒させていたけれど、アルヴィン陛下に抱き上げられて嬉しいのだろう。にこっと笑みを浮かべて私たちの指輪の交換を見ていた。
「エリセリュン国王ご夫妻に、祝福を!」
 司祭様が宣言し、教会内はふたたび拍手に包まれた。
 
 
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