身代わりの結婚は本当の愛のために
 そこへ、すごいオーラを放った五十代と思われる男性と、いかにも社長夫人といった女性、そして一分の隙もない男性が部屋へ案内されてきた。

「お待たせいたしました」
 淡々とした声で挨拶をする久遠家の人々は、私でも驚くほど〝ビジネス 〟といった雰囲気をまとっていた。私はごくりと唾を呑んだ。

 幸せな結婚──そんな雰囲気はまったくなかった。もちろん、父もこの場でなにかを言えるわけもなく、詩乃もまだ黙っている。
 挨拶も済み、この婚姻の契約について、弁護士が話し始めた。
 そこには、かなり我が家に有利な協力体制が記されていて、父はこのために、詩乃を騙してでも連れてきたのだろう。詩乃には、都合のいいことしか話していなかったのだとわかる。
 久遠家の人たちが到着する前、私は契約の細かい条件までは聞いていなかったが、詩乃が声をあげたのは、きっとこの文言だ。

【一年間の間に懐妊すること】
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