身代わりの結婚は本当の愛のために
 ブランシュ・ロワイヤルホテルの上層階の割烹料理店。目の前には、美しい先付が並んだばかりだった。私は食べる手を止めて、ホテル内だということも忘れるような、見事な日本庭園に視線を向けた。一枚板の大きな机に、仲人である男性、弁護士の女性、そして両家の親族が向かい合って座る、典型的な顔合わせの場。
 
 そんな場所に不似合いなほど、怪訝な詩乃の声が響く。
顔合わせの場に先に着いた私たち。詩乃が、先に来ていた弁護士に改めてこの結婚の条件を聞いた瞬間、彼女が叫んだのだ。
「嫌よ、私。こんな結婚」
 外への対応は完璧にこなす詩乃だが、家の中では女王様だ。隣にいた父にそう口にすると、完全に不機嫌そうな表情を浮かべた。

「詩乃、これはお父さんも聞いていなかったんだよ」
 条件面の話はすべて父がしていたのだから、知らなかったなどということはないはずだ。でも、ここまで黙ってきたのは、きっと詩乃がこう言い出すのがわかっていたからかもしれない。
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