身代わりの結婚は本当の愛のために
 料理が残ってしまっているのが、もったいない。そんな気持ちもふと湧いたが、今、それを口にできる空気ではなかった。
「先ほどの契約書ですが、それは祖父の意向も入っていますか?」
 最後まで残っていた弁護士に、久遠社長が尋ねた。「はい。もちろんです」そう返された彼は、大きくため息をついた。

「真白さん」
 私の名前を覚えていたことに、少し驚きながら、私は「はい」と小さく答えた。

「このようなことになって申し訳ありませんが、このまま契約結婚をしていただいてもよろしいですか? その前に、お付き合いされている方はいますか?」
 まさか、こんな言葉をかけられるとは思っていなかった。相手が詩乃だと思っていたのに、いつの間にか私になってしまった。
 そして、この結婚に必死なのは、久遠家との繋がりが欲しい我が家の方だ。

「いえ……家族が、失礼しました」
 褒められるような態度ではなかった両親や詩乃の非礼を詫びると、久遠社長は静かに契約書に視線を落とした。
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