好きをいう前に君の声は風になる
第五話
【次の日】
ピンポーン
私は点滴スタンドを押しながらエレベーターを降りた。
1日もあっという間に終わり、もうすぐ夕飯の時間。
「おかえりなさいーい!」
私が入院している階は、エレベータを降りた瞬間にナースカウンターがある。
そこには、パソコンで何かをうっている佐野さんがいた。彼女はやはり、頑張り屋さん。
「そういえば、お友達が来たわよ」
「え?」
私はその言葉に一気に目が開いた。
急にやる気が満ちてきた。
今ならなんでもできそうになってきた!
「本当!?ありがとうございます!」
私は走りながら点滴スタンドを押した。
「こ〜ら走らない!」
「すいませ〜ん!」
友達が、来ている!私の大好きな、友達が!
ガチャン
「葉那はな!?」
「お!やっほー」
部屋には友達の葉那が待ち構えていた。彼女は近くのパイプ椅子から立ち上がった。
「学校どうだった?」
「授業が早すぎて追いつかないわ!」
「でも葉那って学年10位じゃなかったっけ?」
「それは前の期末。いまはそんな良いわけないじゃんー」
「あんたの部屋、完全に空音ワールドになってるじゃん。何でこんなに漫画が置いてあんのよ」
彼女は本棚に並ぶ大量の漫画を見ていた。
「それは、漫画が好きだからに決まってるでしょ」
「漫画ばっかり読んで飽きないの?」
私は飽きない!と返事をした。
彼女はめんどくさそうに、はいはい、と返事をした。
「ていうかクラスの伊藤がさ.....」
彼女と過ごしている時間は楽しい。いやなことは全て忘れられる。自分が、本当の自分に戻ったようになる。
私は大きく口を開けて精一杯笑った。
しかし、この病院には面会時間というものが決まってた。葉那が入室してから二時間と決められている。
指定の時間になると佐野さんが部屋にやってきて知らせに来る。
コンコンコン
「はーい」
「空音ちゃん?もうすぐお友達の面会時間終わるから」
葉那は少し不機嫌そうな顔になった。
「ほーい」
そう言って帰る支度を始めた。
その風景を見る度に、もう終わりなんだと毎度悲しみを覚える。
いいじゃんずっと話してて.....と、私は思う。
「じゃ、また来んね」
葉那は学校の革バッグを肩にかけて椅子を立ち上がった。帰り際に葉那がハイタッチをしてくれた。
そして、病室の入り口で彼女がこちらを向いた。
私はそれに向かって手を振った。
「またね!」
「うっす!」
ガチャン
葉那は閉まる扉から最後まで顔を覗かせていた。私はその姿にクスッと笑ってしまった。
葉那の顔が見えなくなった瞬間、一人になった寂しさで心が締め付けられた。
私は再び体をベッドに戻した。その間、佐野さんは色んな重機を動かしていた。
「今日は夕飯の後に先生が来て検査をするからね」
「分かりました」
私はベッドに寄りかかりつつ、窓の外を見た。
日が沈みかけていて綺麗な夕日が宮古島の街を照らしていた。
「今日はどんな話したの?」
佐野さんがぽつりと呟いた。
「今日は、クラスの友達の話をしました。その子は学校一イケメンと言われているらしいです」
「そんな子がいるんだ〜。そういう子ってさ、すごいいい子の時と悪い子の二択じゃない?」
私は何度も首を縦に振った。
「そうなんですよ!うちの学校の場合、その子はすっごい悪ガキなんです。夜遊びをしてるって噂もあるくらいの」
佐野さんは、そうなんだ〜、と言った。
佐野さんと、夕陽が見事に交差して光っていた。
彼女とはどこか気が合うのかもしれない。比較的若い人だから学校のことも話していると楽しいし。
しばらくの間、私たちは雑談をした。
もうそろそろ先生が来る時間かな?そんなことを思っている時、部屋の扉が叩かれた。
コンコンコン
「はーい」
「入りますね〜」
扉の先から、先生が入ってきた。首に聴診器を巻きつけていた。少しシワがある白衣がよく似合っていた。
先生は病室の扉を閉めて、こちらに向かってきた。そして、近くのパイプ椅子に腰掛けた。
「よいしょっと。それじゃ心音聞くね」
先生は首から聴診器を外して耳と繋げた。そして、片方の手で耳を押さえながら、もう片方の手で私の胸に聴診器を当てた。
トクン、トクン
緊張で心音が早くなっているかもしれない。先生との距離が近いと、少しばかりだが心音が早くなる。
「うん、正常だね」
一言、先生が言った。
私は安堵した。
いつも聴診器で心音を聞くと、その後の一言に怯えている。何を言われるか、何か問題があったらどうしようとか。
私の身体はそう長くは持たないから。
「.....空音ちゃん?どこか悪い?」
「いや、大丈夫です」
「何かあったらすぐに言ってね。それじゃあ夕飯持ってくるから」
佐野さんがゆっくりと喋りかけてきた。私はその声に少々驚いてしまった。ただ佐野さんが喋りかけてきただけで驚いてしまうなんて。
佐野さんは小走りで扉に行き、部屋を出た。
ガチャン
佐野さんが出ていってしまったため、病室には私と先生の二人だけになってしまった。
先生はボーッとしながら窓の外を見ていた。
「.....夕陽、綺麗ですよね」
「だね」
少し微笑んだ。
私は、思わず目を逸らした。
「そう言えば!白夜さん、これ、置いてってましたよ」
「あ、どうも」
こ、これって———!?
「え、あ、ちょっと!」
私は思いきり漫画を奪い取った。
「何で持ってるんですかこれ?!」
「なんでって、君が置きっぱなしにしてた」
私は、初めて自分以外の人に漫画を見られてしまった。
嘘でしょ.....
恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない。
私は受け取った漫画を素早く近くの棚にしまった。
先生の方を見ると、めっちゃ笑顔で笑っていた。
「あっはっはっは!そんなに真っ赤にならなくてもいいでしょ!空音の顔、真っ赤だよ!」
「え.....」
私は自分の頬に手を当てた。確かに、少し熱くなっていた。
プルルルル!
私が鏡で顔を確認していると、先生の携帯が鳴った。
先生が電話に出た瞬間、部屋の中は一瞬だけ沈黙になった。
「はい、朝倉です....分かりました。すぐ行きます」
すぐに行きますって、どこかに行ってしまうのだろうか。
私はひたすら先生の方を見つめていた。
「それじゃ、俺は仕事があるので。よく寝てね」
先生はそう一言言って立ち上がった。
ガチャン
私は最後の最後まで、先生を見つめた。
先生との時間は、ほんの一瞬だった。
私は急いでキャスター付きの椅子に座り、病室の入り口から顔を出した。
先生は、白衣をちらつかせながら少し早く歩いている。
「はぁ」
その後ろ姿は、ずっと見ていられた。
けど、すぐそばの角で曲がって完全に見えなくなってしまった。
私は扉を閉めて、部屋の中に戻った。
夕飯までやることも特になく、テレビをつけて適当に番組を回した。
『さ〜て、次のアーティストは.....!』
テレビでは、今話題の音楽番組をやっていた。私はそれを見て、すぐにテレビを消した。
テレビはつまらないから別のことをしよ。
私はキャスター付きの椅子から立ち上がり、窓際に立って空を見上げた。
『空を見上げるのが好きなんだ』
この言葉、よく分かる。
私も空を見上げることが好き。
だって、な〜んにも考えなくて済むから。
私の名前には、”空”という漢字が使われている。け、どんな意味があるのかは知らない。自分の名前の由来なんて一度も聞いたことがない。
そんなもん、きっと父親も忘れてるだろう。
「あーねむ」
夕飯が来るまでやることないし。
『空音の顔、真っ赤だよ!』
.......ん?待てよ。
先生さっき、私のこと“空音“って言った?
え、絶対言ったよね?
ちょまってまって。
「やっばいぃぃ!!!!」
ベッドにダイブ当たり前。
足をバタつかせるのも当たり前だった。
ピンポーン
私は点滴スタンドを押しながらエレベーターを降りた。
1日もあっという間に終わり、もうすぐ夕飯の時間。
「おかえりなさいーい!」
私が入院している階は、エレベータを降りた瞬間にナースカウンターがある。
そこには、パソコンで何かをうっている佐野さんがいた。彼女はやはり、頑張り屋さん。
「そういえば、お友達が来たわよ」
「え?」
私はその言葉に一気に目が開いた。
急にやる気が満ちてきた。
今ならなんでもできそうになってきた!
「本当!?ありがとうございます!」
私は走りながら点滴スタンドを押した。
「こ〜ら走らない!」
「すいませ〜ん!」
友達が、来ている!私の大好きな、友達が!
ガチャン
「葉那はな!?」
「お!やっほー」
部屋には友達の葉那が待ち構えていた。彼女は近くのパイプ椅子から立ち上がった。
「学校どうだった?」
「授業が早すぎて追いつかないわ!」
「でも葉那って学年10位じゃなかったっけ?」
「それは前の期末。いまはそんな良いわけないじゃんー」
「あんたの部屋、完全に空音ワールドになってるじゃん。何でこんなに漫画が置いてあんのよ」
彼女は本棚に並ぶ大量の漫画を見ていた。
「それは、漫画が好きだからに決まってるでしょ」
「漫画ばっかり読んで飽きないの?」
私は飽きない!と返事をした。
彼女はめんどくさそうに、はいはい、と返事をした。
「ていうかクラスの伊藤がさ.....」
彼女と過ごしている時間は楽しい。いやなことは全て忘れられる。自分が、本当の自分に戻ったようになる。
私は大きく口を開けて精一杯笑った。
しかし、この病院には面会時間というものが決まってた。葉那が入室してから二時間と決められている。
指定の時間になると佐野さんが部屋にやってきて知らせに来る。
コンコンコン
「はーい」
「空音ちゃん?もうすぐお友達の面会時間終わるから」
葉那は少し不機嫌そうな顔になった。
「ほーい」
そう言って帰る支度を始めた。
その風景を見る度に、もう終わりなんだと毎度悲しみを覚える。
いいじゃんずっと話してて.....と、私は思う。
「じゃ、また来んね」
葉那は学校の革バッグを肩にかけて椅子を立ち上がった。帰り際に葉那がハイタッチをしてくれた。
そして、病室の入り口で彼女がこちらを向いた。
私はそれに向かって手を振った。
「またね!」
「うっす!」
ガチャン
葉那は閉まる扉から最後まで顔を覗かせていた。私はその姿にクスッと笑ってしまった。
葉那の顔が見えなくなった瞬間、一人になった寂しさで心が締め付けられた。
私は再び体をベッドに戻した。その間、佐野さんは色んな重機を動かしていた。
「今日は夕飯の後に先生が来て検査をするからね」
「分かりました」
私はベッドに寄りかかりつつ、窓の外を見た。
日が沈みかけていて綺麗な夕日が宮古島の街を照らしていた。
「今日はどんな話したの?」
佐野さんがぽつりと呟いた。
「今日は、クラスの友達の話をしました。その子は学校一イケメンと言われているらしいです」
「そんな子がいるんだ〜。そういう子ってさ、すごいいい子の時と悪い子の二択じゃない?」
私は何度も首を縦に振った。
「そうなんですよ!うちの学校の場合、その子はすっごい悪ガキなんです。夜遊びをしてるって噂もあるくらいの」
佐野さんは、そうなんだ〜、と言った。
佐野さんと、夕陽が見事に交差して光っていた。
彼女とはどこか気が合うのかもしれない。比較的若い人だから学校のことも話していると楽しいし。
しばらくの間、私たちは雑談をした。
もうそろそろ先生が来る時間かな?そんなことを思っている時、部屋の扉が叩かれた。
コンコンコン
「はーい」
「入りますね〜」
扉の先から、先生が入ってきた。首に聴診器を巻きつけていた。少しシワがある白衣がよく似合っていた。
先生は病室の扉を閉めて、こちらに向かってきた。そして、近くのパイプ椅子に腰掛けた。
「よいしょっと。それじゃ心音聞くね」
先生は首から聴診器を外して耳と繋げた。そして、片方の手で耳を押さえながら、もう片方の手で私の胸に聴診器を当てた。
トクン、トクン
緊張で心音が早くなっているかもしれない。先生との距離が近いと、少しばかりだが心音が早くなる。
「うん、正常だね」
一言、先生が言った。
私は安堵した。
いつも聴診器で心音を聞くと、その後の一言に怯えている。何を言われるか、何か問題があったらどうしようとか。
私の身体はそう長くは持たないから。
「.....空音ちゃん?どこか悪い?」
「いや、大丈夫です」
「何かあったらすぐに言ってね。それじゃあ夕飯持ってくるから」
佐野さんがゆっくりと喋りかけてきた。私はその声に少々驚いてしまった。ただ佐野さんが喋りかけてきただけで驚いてしまうなんて。
佐野さんは小走りで扉に行き、部屋を出た。
ガチャン
佐野さんが出ていってしまったため、病室には私と先生の二人だけになってしまった。
先生はボーッとしながら窓の外を見ていた。
「.....夕陽、綺麗ですよね」
「だね」
少し微笑んだ。
私は、思わず目を逸らした。
「そう言えば!白夜さん、これ、置いてってましたよ」
「あ、どうも」
こ、これって———!?
「え、あ、ちょっと!」
私は思いきり漫画を奪い取った。
「何で持ってるんですかこれ?!」
「なんでって、君が置きっぱなしにしてた」
私は、初めて自分以外の人に漫画を見られてしまった。
嘘でしょ.....
恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない。
私は受け取った漫画を素早く近くの棚にしまった。
先生の方を見ると、めっちゃ笑顔で笑っていた。
「あっはっはっは!そんなに真っ赤にならなくてもいいでしょ!空音の顔、真っ赤だよ!」
「え.....」
私は自分の頬に手を当てた。確かに、少し熱くなっていた。
プルルルル!
私が鏡で顔を確認していると、先生の携帯が鳴った。
先生が電話に出た瞬間、部屋の中は一瞬だけ沈黙になった。
「はい、朝倉です....分かりました。すぐ行きます」
すぐに行きますって、どこかに行ってしまうのだろうか。
私はひたすら先生の方を見つめていた。
「それじゃ、俺は仕事があるので。よく寝てね」
先生はそう一言言って立ち上がった。
ガチャン
私は最後の最後まで、先生を見つめた。
先生との時間は、ほんの一瞬だった。
私は急いでキャスター付きの椅子に座り、病室の入り口から顔を出した。
先生は、白衣をちらつかせながら少し早く歩いている。
「はぁ」
その後ろ姿は、ずっと見ていられた。
けど、すぐそばの角で曲がって完全に見えなくなってしまった。
私は扉を閉めて、部屋の中に戻った。
夕飯までやることも特になく、テレビをつけて適当に番組を回した。
『さ〜て、次のアーティストは.....!』
テレビでは、今話題の音楽番組をやっていた。私はそれを見て、すぐにテレビを消した。
テレビはつまらないから別のことをしよ。
私はキャスター付きの椅子から立ち上がり、窓際に立って空を見上げた。
『空を見上げるのが好きなんだ』
この言葉、よく分かる。
私も空を見上げることが好き。
だって、な〜んにも考えなくて済むから。
私の名前には、”空”という漢字が使われている。け、どんな意味があるのかは知らない。自分の名前の由来なんて一度も聞いたことがない。
そんなもん、きっと父親も忘れてるだろう。
「あーねむ」
夕飯が来るまでやることないし。
『空音の顔、真っ赤だよ!』
.......ん?待てよ。
先生さっき、私のこと“空音“って言った?
え、絶対言ったよね?
ちょまってまって。
「やっばいぃぃ!!!!」
ベッドにダイブ当たり前。
足をバタつかせるのも当たり前だった。