ノイズの向こうできみは歌う
山都がこうなのは、入学式の日からだった。

俺の小学校からこの中学に進学したのは俺だけで、知り合いなんて誰もいない。
ざわつく教室で、俺は一人黙って自分の席に座っていた。

変化があったのは、自己紹介のときだ。

水前(みずまえ)小から来た松橋(まつばせ)譲二(じょうじ)です。よろしく」

それだけ言って、座ろうとした。
だれかと仲良くするつもりはない。
これで十分だ。

「え!?」

だけど座ろうとする俺を引き止める声が上がった。

振り返ると、髪の長い小柄な女子が立ち上がっている。
ぱっちりとした目は驚きに見開かれていて、俺の方に向けられていた。

「なんだー? 山都。まだお前の番じゃないぞー?」

担任がそう言って、クラスに笑いが起きる。

「あ、すみませーん。ついでだからあたし、自己紹介しちゃっていいですか? 武丘(たけおか)小出身、山都由真でっす! 好きなことはギターと歌うこと。あとスイーツも好きだしおしゃべりすることとかみんなでわいわいすることも好き! よろしくねー!」

山都うるせーぞー、と声が上がり、教室が笑いで包まれる。

俺はそっと座って、賑わってるのをぼんやり見ていた。

とりあえず、目立たずにすんでよかった。
友達なんて作るつもりはない。
よろしくなんてする気もない。
あの女子が声を上げた理由はわからないけど、教室中の注目はもうあの子に移っている。

いるよな、ああいうやつ。
ステージでも目を惹くやつが……って、もうあのことは忘れることにしたんだ。
もうあんな思いはしたくない……。

そうこうしてるうちにホームルームも終わって、下校の時間になった。
今日から部活見学できるらしいけど、俺はどの部活にも入るつもりはない。
カバンを手に教室を出た。

学校から徒歩十五分のマンションには、元々兄貴が住んでいた。
うちからだとちょっと学校までは遠くて、住まわせてもらうことになったのだ。

二つの足音が重なる。
随分前から気づいてはいたけど、俺はようやく足を止めた。
もう一つの足音も止まる。

「あのさ、なんか用?」

振り返った先には、クラスの女子がいた。
自己紹介のときに割り込んできたやつだ。
本気で尾行がばれてないと思ってたようで、突然振り返った俺に、驚いた顔をしている。

「家がこっちとかじゃねぇよな、その顔じゃ。なんか俺に言いたいことでもあんのか?」

彼女は振り向いたときこそ慌てふためいていたが、俺がそう声をかけると意を決したかのように、ぐっと拳を握った。

「松橋譲二くんだよね?」
「あぁ」
「あたし、同じクラスの山都由真」
「あぁ」

そういやそんな名前だった。

山都由真はそこで言葉を切る。
一つ呼吸をして、口を開いた。

「『ムジカ』って、知ってるよね?」
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