激甘嘘婚~冷徹社長は初恋秘書を手放さない~
荷物は全部、潤の家に置いたままだ。

就職祝いに弟たちにもらった宝物のバッグも、その中に含まれている。

ため息をつきつつ、寝返りを打って、ソファーの下に置いた通勤用のバッグを手繰り寄せた。

中に手を入れ、内側についているキーホルダーを外す。

手のひらで握れるサイズの、ふにゃ鳥のマスコットがついたキーホルダーだ。

中学の頃に買った古い物なので、暗がりで見ても薄汚れている。

由利はふにゃ鳥のマスコットに頬ずりをした。

「はあ、癒される……」

自然と目尻が下がってしまう。

由利は、本当はふにゃ鳥が大好きなのだ。

中学の時、ふにゃ鳥の丸っこいフォルムと表情に癒されて、大ファンになった。

『なにそれウケる! 堅物のお前には似合わないんだけど』

だが高校の時、通学バッグにつけたこのキーホルダーを、クラスの男子に笑われた。

それ以来、ふにゃ鳥が好きなことを人に言えなくなってしまった。

ふにゃ鳥グッズを買うのもおこがましくて、このキーホルダー以外は持っていない。

おおっぴらにつけるのも恥ずかしく、こっそり内側につけている。

同年代が楽しそうに遊んでいる中でひとりバイトに明け暮れた大学時代は、このふにゃ鳥キーホルダーなしでは乗り越えることができなかった。

どんなに疲れた日もふにゃ鳥を見ると心が癒され、頑張ろうという気持ちになれたのだ。

ただのキャラクターだとしても、由利にとっては、他の何物にも代えがたい大きな存在だった。

そしてよりいっそうふにゃ鳥の魅力を引き出したいという思いから、ふにゃ鳥を生み出したピュリラックスに入社した。

自分には、かわいいキャラクターは似合わないとわかっている。

だから入社後も、ふにゃ鳥が好きなわけではなく、あくまでも戦略として利用しているフリをし続けた。

身のほど知らずと思われたくないからだ。

(それにしても、よりにもよって潤に怒鳴られているところを、堂前朔也に目撃されるなんて)

先ほどの朔也の冷たい視線を思い出し、由利は生きた心地がしなくなる。

恥ずかしさから、ソファーの上で身を縮めた。

(いっそのこと、消えてしまいたい……)

壁の向こうから、架純の楽しそうな笑い声が響いてくる。

ひとりぼっちが余計に身に染みて、由利はまた泣きたくなった。
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