激甘嘘婚~冷徹社長は初恋秘書を手放さない~

切れ長の怜悧(れいり)な漆黒の目で、真っすぐ由利を見つめている。

由利は驚き、目をみはった。

「……どうして、社長がこんなところにいらっしゃるのですか?」

(今夜は、取引先との会合でしょ? まさか、リスケしたの?)

特別任務を負っている秘書として、勝手な行動をした彼を注意しなければならないのはわかっている。

それなのに顔を見たとたん、心の防波堤が崩れたかのように目に涙が溢(あふ)れた。

朔也とはあくまでも仕事上の関係。

それも、つい最近までは苦手だったはずなのに、今はどうしようもなくホッとしてしまう。

急に泣き始めた由利を、朔也はしばらくの間黙って見守っていた。

「行くところがないなら、うちに来い」

「それは、さすがに無理があります。私は社長の家族でも友人でもなく、ただの秘書ですので」

「そうか。それなら、結婚すればいい」

まるでプロポーズのようなセリフだった。

「けっこん? え?」

見えない一撃を食らった気分になり、由利は動揺する。

理解が追いつかなくて、何度も目を(しばたた)かせた。

元カレにこっぴどくフラれたこの状況と、目の前にいるビジネス上の付き合いしかない強面(こわもて)社長との結婚が、どうしても結びつかない。

「俺の妻なら、俺の家に住んでも問題ないだろう?」

由利の動揺などものともせず、朔也が続ける。

(結婚って……やっぱりあの結婚よね? 私が? 朔也社長と?)

由利は唖然(あぜん)として、見た目と肩書きだけは完璧な彼の顔を見つめ返すことしかできなかった。
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