激甘嘘婚~冷徹社長は初恋秘書を手放さない~
翠の声に引き寄せられ、他の社員も由利の周りに集まってきた。

「すごい!! おめでとうございます!!」

「石立さんなら、絶対に昇進すると思ってたんすよ!」

「さすが、異例の速さですね。石立さんはほんと頼りになるから納得ですけど」

同僚たちに拍手で(たた)えられ、由利ははにかんだ。

「みんな、ありがとう」

デジタルコンテンツ部の社員たちは、皆朗らかで人がいい。

本当に居心地がよくて、由利はこの部署で働ける毎日に感謝していた。

「支えてくれたみんなのおかげよ」

「またまた! 石立さんの能力が高いからに決まってるじゃないですか!」

「そうそう。石立さんがチームリーダーになってから、仕事がやりやすくなったって、全員が言っていますよ」

「石立さんが発案した〝ふにゃ鳥〟の『ふにゃっと生きても大丈夫』コンテンツのおかげで、ふにゃ鳥人気がすごいことになっていますしね!」

ふにゃ鳥というのは、ピュリラックスが生んだ人気キャラクターだ。

薄茶色のふわふわとしたひよこのような、癒し系のゆるくてかわいい見た目をしている。

一時期人気が低迷していたが、キャラクター公式SNSを立ち上げ、ふにゃ鳥の脱力系のイラストとともに『頑張らなくても大丈夫』という言葉を定期的に発信したところ、爆発的人気となった。

【遅刻して落ち込んでる? 行けただけでえらいとふにゃ鳥は思う】

【やる気が起こらない? ふにゃ? それ普通だけど】

【洗濯がめんどくさい? それなら今日はサボってふにゃっとしよう。水道代が節約できて一石二鳥】

ふにゃ鳥のイメージからインスピレーションを得た言葉の数々は、学生や社会人、主婦やお年寄りまで、幅広い層に刺さったらしい。

「でも石立さん、前の飲み会で言ってたけど、ふにゃ鳥が好きなわけじゃないんですよね?」

翠が、思い出したように言う。

由利は頷いた。

「ええ、そうよ。ああいうかわいいキャラって苦手なの。あくまでも戦略として、利用したにすぎないわ」

「カッコいい! そういうところ、仕事人間って感じで憧れます!」

翠がキラキラと目を輝かせ、由利を見つめた。

入社当初は花形であるプロデュース部を志望していたが、今となっては、デジタルコンテンツ部が一番合っている部署だと思っている。

由利は丸眼鏡の奥の瞳を燃やし、ガッツポーズをした。

「今後もデジタルコンテンツ部を盛り上げていけるよう、頑張るね!」

「はい、一生ついていきます! ていうかガッツポーズをする石立さん、初めて見ました」

翠が驚いたような顔をし、由利は「あ」と凍りつく。

嬉しさのあまり、つい柄にもないことをしてしまった。

ガッツポーズのまま恥ずかしがる由利を見て、翠がおもしろそうに笑う。

「仕事が終わったら、お祝いにみんなで飲みに行きましょう! お店、予約しますね!」

「川瀬さん、ありがとう」

その時、デジタルコンテンツ部の前の廊下を、スッとひとりの男が通り過ぎた。

百八十六センチの長身に、少しクセのある黒髪の怜悧な顔立ち。

由利はガッツポーズ姿のまま、異様なオーラを放つ彼とばっちり目が合ってしまう。

とたんにものすごい顔で(にら)まれ、震え上がった。
< 4 / 13 >

この作品をシェア

pagetop