激甘嘘婚~冷徹社長は初恋秘書を手放さない~
「朔也さん……? 聖司さんではないのですか?」
「それが、聖司は昨日から行方不明なの」
「えっ!?」
「事件性はないわ、自分の意思で海外に行った形跡があるから。聖司が見つかるまでの間、ひとまず朔也を社長に就任させることにしたの。社長不在の期間が長いと、会社の印象がよりいっそう悪くなってしまうでしょう?」
「そう……ですね」
(堂前朔也が新社長? 大丈夫なの?)
由利は眉をひそめた。
朔也は見た目がいい。
容姿だけで評価するなら、彰よりも聖司よりも上かもしれない。
とりわけ外国人モデル並みのスタイルは人目を引く。
だがいかんせん、強面で愛想がないのだ。社員からもすこぶる評判が悪く、社長としての能力も怪しい。
ざっくり想像しただけで、胃が重くなるような不安要素があった。
「今、朔也で大丈夫かしらって思ったでしょ?」
「あ、いえ」
志乃に心の中を見透かされ、由利は口ごもる。
さすがレジェンド、まるで透視の力でもあるかのように察しがいい。
「正直に答えてくれていいのよ、私もそう思っているから」
志乃が、口元だけ微笑んだ。
「動物をモチーフにしたかわいらしいキャラクターが売りの我が社に、あの子の雰囲気はまったく合わない。イメージダウンでしかないわ。だけど朔也は堂前家の血を継ぐ者。聖司がいない今、彼以外に社長は考えられないの」
創業者の志乃には自分の血縁に会社を継がせたいという、揺るぎない思いがあるらしい。
ファミリービジネスには、経営の安定や、古くからの取引先との強い信頼関係など、多くの利点がある。
古い考え方とも取れるが、それも一理あると由利は思った。
「そこで、あなたに朔也の秘書になってもらいたいの」
(うんうん、秘書……って、秘書!?)
頷きながら聞いていた由利は、思いがけない志乃の言葉でパッと顔を上げた。
「私が秘書、ですか?」
「そうよ。一日中朔也とともに行動してアドバイスし、まずは社員からのイメージを改善して、我が社にふさわしい社長となるようサポートしてもらいたいの」
「……どうして私なのですか? 他にもっと、適した方がいらっしゃるように思うのですが」
由利の顔が引きつる。
志乃がなにを考えているのか、本気で理解できなかった。
社会人としてのマナーを身に付けようと、大学時代にいちおう秘書検定二級は取得したが、だいぶ前のことだし忘れてしまっている。
それに同じ資格を持っている社員は、由利の他にもいるだろう。
志乃が怖いほどの笑顔を見せた。
「なにを言ってるの、あなた以上の適任はいないわ。あなたは真面目で要領がいいと、社内でも評判ですもの。昨今のふにゃ鳥人気にひと役買った手腕も評価しているわ。それから、朔也と同じ高校出身なのも大きいわね。少しでも共通点のある秘書の方が、朔也も打ち解けやすいでしょ?」
「同じ高校……」
(堂前朔也も、R高出身だったの? 知らなかった。ていうか共通点もなにも、同じ高校ってだけで学年も違うし、話したことすらないんですけど。むしろ、目が合っただけで睨まれる立場なのに)
社内で恐れられている朔也は、見かけるたびにひとりでいる。
社員と仲良さげにしている姿など見たことがない。
(きっと、堂前朔也と接点のある人が見つからず、苦肉の策で同じ高校出身の私に目をつけたのね)
無茶ぶりにもほどがあるが、志乃のオーラがすごすぎて、由利は反論できずにいた。
だが、受け取ったばかりの昇進メールを思い出し、我に返る。
たとえ強者相手でも、ここは自分を強く持ち、意志を押し通すしかない。
「申し訳ないのですが、プロダクトマネージャーに昇進するお話をいただいたばかりで――」
「それが、聖司は昨日から行方不明なの」
「えっ!?」
「事件性はないわ、自分の意思で海外に行った形跡があるから。聖司が見つかるまでの間、ひとまず朔也を社長に就任させることにしたの。社長不在の期間が長いと、会社の印象がよりいっそう悪くなってしまうでしょう?」
「そう……ですね」
(堂前朔也が新社長? 大丈夫なの?)
由利は眉をひそめた。
朔也は見た目がいい。
容姿だけで評価するなら、彰よりも聖司よりも上かもしれない。
とりわけ外国人モデル並みのスタイルは人目を引く。
だがいかんせん、強面で愛想がないのだ。社員からもすこぶる評判が悪く、社長としての能力も怪しい。
ざっくり想像しただけで、胃が重くなるような不安要素があった。
「今、朔也で大丈夫かしらって思ったでしょ?」
「あ、いえ」
志乃に心の中を見透かされ、由利は口ごもる。
さすがレジェンド、まるで透視の力でもあるかのように察しがいい。
「正直に答えてくれていいのよ、私もそう思っているから」
志乃が、口元だけ微笑んだ。
「動物をモチーフにしたかわいらしいキャラクターが売りの我が社に、あの子の雰囲気はまったく合わない。イメージダウンでしかないわ。だけど朔也は堂前家の血を継ぐ者。聖司がいない今、彼以外に社長は考えられないの」
創業者の志乃には自分の血縁に会社を継がせたいという、揺るぎない思いがあるらしい。
ファミリービジネスには、経営の安定や、古くからの取引先との強い信頼関係など、多くの利点がある。
古い考え方とも取れるが、それも一理あると由利は思った。
「そこで、あなたに朔也の秘書になってもらいたいの」
(うんうん、秘書……って、秘書!?)
頷きながら聞いていた由利は、思いがけない志乃の言葉でパッと顔を上げた。
「私が秘書、ですか?」
「そうよ。一日中朔也とともに行動してアドバイスし、まずは社員からのイメージを改善して、我が社にふさわしい社長となるようサポートしてもらいたいの」
「……どうして私なのですか? 他にもっと、適した方がいらっしゃるように思うのですが」
由利の顔が引きつる。
志乃がなにを考えているのか、本気で理解できなかった。
社会人としてのマナーを身に付けようと、大学時代にいちおう秘書検定二級は取得したが、だいぶ前のことだし忘れてしまっている。
それに同じ資格を持っている社員は、由利の他にもいるだろう。
志乃が怖いほどの笑顔を見せた。
「なにを言ってるの、あなた以上の適任はいないわ。あなたは真面目で要領がいいと、社内でも評判ですもの。昨今のふにゃ鳥人気にひと役買った手腕も評価しているわ。それから、朔也と同じ高校出身なのも大きいわね。少しでも共通点のある秘書の方が、朔也も打ち解けやすいでしょ?」
「同じ高校……」
(堂前朔也も、R高出身だったの? 知らなかった。ていうか共通点もなにも、同じ高校ってだけで学年も違うし、話したことすらないんですけど。むしろ、目が合っただけで睨まれる立場なのに)
社内で恐れられている朔也は、見かけるたびにひとりでいる。
社員と仲良さげにしている姿など見たことがない。
(きっと、堂前朔也と接点のある人が見つからず、苦肉の策で同じ高校出身の私に目をつけたのね)
無茶ぶりにもほどがあるが、志乃のオーラがすごすぎて、由利は反論できずにいた。
だが、受け取ったばかりの昇進メールを思い出し、我に返る。
たとえ強者相手でも、ここは自分を強く持ち、意志を押し通すしかない。
「申し訳ないのですが、プロダクトマネージャーに昇進するお話をいただいたばかりで――」