激甘嘘婚~冷徹社長は初恋秘書を手放さない~
由利が富裕層の子供が多い名門、都内某所にあるR高校に入学できたのは、必死に勉強を頑張って特待生選抜に合格したからだった。
学費はすべて免除になったものの、地元の前橋から通うには片道二時間近くもかかった。
それでも、一流の大学に行くために三年間耐え抜いた。
貧乏人の由利はお金持ちの中では浮いてしまい、高校時代の友人は数えるほどしかいない。
同学年でもそんな状況なのに、他学年の生徒と関わりがあるはずがなかった。
だからもちろん、一学年下の朔也のことも知らなかった。
志乃との話し合いがまとまった後、由利は高校時代のことを思い出しながら、デジタルコンテンツ部に戻った。
皆が、突然会長に呼ばれた由利を心配していた。
だが現社長の会見まで、由利が新社長の秘書になることは秘密なので、言葉を濁すしかない。
昇進祝いの飲み会まで設定してくれたものの、行く気になれず、急用ができたと断る。
優しい彼らが笑って許してくれたのが、せめてもの救いだった。
集中できず少し残業したので、オフィスを出たのはいつもより遅い時間だった。
一月下旬の寒空の下、帰宅しながら、由利はずっとモヤモヤしていた。
(早く誰かに話して、この訳のわからない状況に共感してもらいたい。だけど潤もピュリラックスの社員だから話せないわ)
西出潤は、由利の彼氏だ。
同学年で営業部の彼とは、二年前に会社の飲み会で知り合い、猛プッシュされて付き合った。
話し合い、職場では恋人同士であることを秘密にしている。
潤の家で同棲を始めて、ちょうど一年。
一緒に住んだら家賃が浮くだろうと、彼が提案してくれたのがきっかけだった。
潤は優しいだけでなく、社交性があり、友達も多い。
高校時代にバスケ部で全国大会に出場した経歴があり、スポーツができる人が持つ特有の華もある。
家賃が浮いているお礼にと、由利はできる限り食事を作り、家事もすべてひとりでこなしている。
帰るのが遅れると、潤はいつもリビングのソファーに寝そべってテレビを見ながら、由利が夕食を作るのを待ちわびていた。
仕事が忙しい時期は大変だが、頑張らないといけないと思っている。
途中でスーパーに立ち寄る。
ぼうっとしていたため、肉じゃがと味噌汁、サバの煮つけの材料をそろえるのに一時間以上もかかってしまった。
白ネギの飛び出したビニール袋を持ち、マンションのエレベーターに乗りながら、由利はふと思い出す。
(そういえば、今日は飲み会があるからご飯の用意ができないと、潤にメッセージしたんだった。飲み会に行くのをやめたから帰るって、連絡し忘れてたわ。もう、お弁当を買って食べてるかもしれない)
由利は普段、うっかりするタイプではない。
朔也の秘書になるという衝撃の出来事が、そうとう身に応えているようだ。
とはいえ、連絡するのも今さらだ。
(潤がお弁当を食べてたら、今日買い込んだ食材は明日の夕食にすればいいし、問題ないわよね)
三階で降り、玄関のドアを開ける。
残業をした上にスーパーで無駄に時間を過ごしたので、すでに午後九時になっていた。
鍵を開けて中に入ると、室内は薄暗かった。
「潤?」
(いないのかしら?)
違和感を覚えながらもパンプスを脱ぐ。
その時由利は、玄関に白いハイヒールが置かれていることに気付いた。
ヒールの高さが七センチはありそうなそれは、ローヒール派の由利のものではない。
「あ……んんっ!」
「ああ、かわいい。ほんとにかわいいよ」
リビング兼寝室に通じるドアの向こうからそんな声が聞こえ、由利は凍りついた。
女と、潤の声だ。
学費はすべて免除になったものの、地元の前橋から通うには片道二時間近くもかかった。
それでも、一流の大学に行くために三年間耐え抜いた。
貧乏人の由利はお金持ちの中では浮いてしまい、高校時代の友人は数えるほどしかいない。
同学年でもそんな状況なのに、他学年の生徒と関わりがあるはずがなかった。
だからもちろん、一学年下の朔也のことも知らなかった。
志乃との話し合いがまとまった後、由利は高校時代のことを思い出しながら、デジタルコンテンツ部に戻った。
皆が、突然会長に呼ばれた由利を心配していた。
だが現社長の会見まで、由利が新社長の秘書になることは秘密なので、言葉を濁すしかない。
昇進祝いの飲み会まで設定してくれたものの、行く気になれず、急用ができたと断る。
優しい彼らが笑って許してくれたのが、せめてもの救いだった。
集中できず少し残業したので、オフィスを出たのはいつもより遅い時間だった。
一月下旬の寒空の下、帰宅しながら、由利はずっとモヤモヤしていた。
(早く誰かに話して、この訳のわからない状況に共感してもらいたい。だけど潤もピュリラックスの社員だから話せないわ)
西出潤は、由利の彼氏だ。
同学年で営業部の彼とは、二年前に会社の飲み会で知り合い、猛プッシュされて付き合った。
話し合い、職場では恋人同士であることを秘密にしている。
潤の家で同棲を始めて、ちょうど一年。
一緒に住んだら家賃が浮くだろうと、彼が提案してくれたのがきっかけだった。
潤は優しいだけでなく、社交性があり、友達も多い。
高校時代にバスケ部で全国大会に出場した経歴があり、スポーツができる人が持つ特有の華もある。
家賃が浮いているお礼にと、由利はできる限り食事を作り、家事もすべてひとりでこなしている。
帰るのが遅れると、潤はいつもリビングのソファーに寝そべってテレビを見ながら、由利が夕食を作るのを待ちわびていた。
仕事が忙しい時期は大変だが、頑張らないといけないと思っている。
途中でスーパーに立ち寄る。
ぼうっとしていたため、肉じゃがと味噌汁、サバの煮つけの材料をそろえるのに一時間以上もかかってしまった。
白ネギの飛び出したビニール袋を持ち、マンションのエレベーターに乗りながら、由利はふと思い出す。
(そういえば、今日は飲み会があるからご飯の用意ができないと、潤にメッセージしたんだった。飲み会に行くのをやめたから帰るって、連絡し忘れてたわ。もう、お弁当を買って食べてるかもしれない)
由利は普段、うっかりするタイプではない。
朔也の秘書になるという衝撃の出来事が、そうとう身に応えているようだ。
とはいえ、連絡するのも今さらだ。
(潤がお弁当を食べてたら、今日買い込んだ食材は明日の夕食にすればいいし、問題ないわよね)
三階で降り、玄関のドアを開ける。
残業をした上にスーパーで無駄に時間を過ごしたので、すでに午後九時になっていた。
鍵を開けて中に入ると、室内は薄暗かった。
「潤?」
(いないのかしら?)
違和感を覚えながらもパンプスを脱ぐ。
その時由利は、玄関に白いハイヒールが置かれていることに気付いた。
ヒールの高さが七センチはありそうなそれは、ローヒール派の由利のものではない。
「あ……んんっ!」
「ああ、かわいい。ほんとにかわいいよ」
リビング兼寝室に通じるドアの向こうからそんな声が聞こえ、由利は凍りついた。
女と、潤の声だ。