【長編版】天才幼女セラフィーヌ、ツンデレ辺境伯様とただいま領地改革中!
翌朝、私とマルタは南の丘へと続く小道を登っていた。
「はぁ……はぁ……」
少し上ったところで早くもゼイゼイと息が上がる。
(五歳児ボディ、体力がなさすぎる……!いや、もしかして私自身の問題だったりする?)
前世では会社とマンションを往復するばかりで、健康のためにと入会したジムも忙しさを理由に早々に辞めてしまった。まさか転生してから後悔することになるとは。
何度かマルタに手を引いてもらいながら、やっとの思いで丘の上へたどり着く。
そこには、一軒の大きな建物があった。
白い漆喰の壁に青色の屋根。丘の下に広がる村の景色が一望できる絶好のロケーションだ。庭には石畳が敷かれ、その脇には白いテーブルと椅子がいくつか残されている。お店が繁盛していた頃は人気のテラス席だったに違いない。
(これなら人気のレストランだったのも納得だわ)
けれど、当然ながら今は看板もなく、時間が止まったみたいにひっそりとしている。二階のバルコニーに手入れされた花のプランターが見えて、マルタの言うとおりミーナがここに暮らしていることがわかった。
私たちは玄関前までやってくると、マルタが真鍮の叩き金を鳴らした。ほどなくして建物の奥から足音が近づいてくる。
扉を開けたのは、三十代半ばくらいの女性だった。赤みがかった茶色の髪を後ろで一つに束ね、ワンピースの上に濃紺のエプロンを身につけている。
「マルタ?こんな朝早くに、どうし――」
彼女は私の姿に気づくと驚いたように目を見開き、すぐにスカートの裾をつまんで深く頭を下げる。
「まあ、セラフィーヌお嬢様……!もうお身体はよろしいのですか?」
そうだった。セラフィーヌは父親と同じ流行り病で倒れて、生死の境を彷徨っていたんだっけ。
ミーナはそう言ったあと、息切れをしている私を心配そうに見つめる。
「うん。もうだいじょうぶ。いっぱいねたから元気になったよ!」
実際には丘を登っただけで息も絶え絶えだけど、それは病み上がりというより、五歳児ボディと前世からの運動不足のせいだ、たぶん。
「それは本当によろしゅうございました。さあどうぞ、中へお入りくださいませ」
階段を上がり、二階のダイニングへと案内される。大きな窓から朝の光が差し込み、その向こうにはヴェルナーの村が広がっている。
ミーナは私たちにハーブティーを淹れてくれた。
「お嬢様にも飲みやすいものを選んでブレンドしております」
彼女が育てているハーブを数種類ブレンドして作ったという特製ハーブティー。口に含むと爽やかな香りが鼻へ抜けて、後味にはほのかな甘みがあった。
(香りも味も互いの良さを殺していない……これだけでも十分商品にできそうなクオリティね)
それだけじゃない。病み上がりの子どもであるセラフィーヌに合わせて、刺激の強いハーブを避けてくれている。
相手の状況から臨機応変に対応できる判断力と、確かな味覚。彼女の料理人としての感覚が衰えていないことを確信する。彼女に協力してもらえたら加工品づくりは一気に進むし、ものすごく頼もしい。
「それで本日は、どのようなご用件でしょうか」
ミーナは私たちの向かいに腰を下ろした。
「お嬢様が、ヴェルナーの野菜や果物を使った新しい商品を作りたいと考えていらっしゃるの」
「新しい商品ですか?」
「うん。あのね、今この領地っておしごとが少ないでしょ?それでね、おやさいをスープにしたりくだものをジャムにしたりして、王都で売りたいとおもってるの」
私はスケッチブックをテーブルに広げて説明する。
「かたちが悪くてもおりょうりにしたら売れるし、ながく保存できるでしょ?ここの村のおいしいやさいを、たくさんの人にたべてもらいたいの!」
「なるほど……」
ミーナの視線が、スケッチブックの上をゆっくりと動く。私はここぞとばかりに身を乗り出した。
「それで、ミーナにセラたちを手伝ってほしくておねがいしにきたんだ」
「と申しますと……?」
「マルタから聞いたの。ミーナはすっごくおりょうりが上手だって」
その瞬間、ミーナの表情が固まって静かに目を伏せた。
「はぁ……はぁ……」
少し上ったところで早くもゼイゼイと息が上がる。
(五歳児ボディ、体力がなさすぎる……!いや、もしかして私自身の問題だったりする?)
前世では会社とマンションを往復するばかりで、健康のためにと入会したジムも忙しさを理由に早々に辞めてしまった。まさか転生してから後悔することになるとは。
何度かマルタに手を引いてもらいながら、やっとの思いで丘の上へたどり着く。
そこには、一軒の大きな建物があった。
白い漆喰の壁に青色の屋根。丘の下に広がる村の景色が一望できる絶好のロケーションだ。庭には石畳が敷かれ、その脇には白いテーブルと椅子がいくつか残されている。お店が繁盛していた頃は人気のテラス席だったに違いない。
(これなら人気のレストランだったのも納得だわ)
けれど、当然ながら今は看板もなく、時間が止まったみたいにひっそりとしている。二階のバルコニーに手入れされた花のプランターが見えて、マルタの言うとおりミーナがここに暮らしていることがわかった。
私たちは玄関前までやってくると、マルタが真鍮の叩き金を鳴らした。ほどなくして建物の奥から足音が近づいてくる。
扉を開けたのは、三十代半ばくらいの女性だった。赤みがかった茶色の髪を後ろで一つに束ね、ワンピースの上に濃紺のエプロンを身につけている。
「マルタ?こんな朝早くに、どうし――」
彼女は私の姿に気づくと驚いたように目を見開き、すぐにスカートの裾をつまんで深く頭を下げる。
「まあ、セラフィーヌお嬢様……!もうお身体はよろしいのですか?」
そうだった。セラフィーヌは父親と同じ流行り病で倒れて、生死の境を彷徨っていたんだっけ。
ミーナはそう言ったあと、息切れをしている私を心配そうに見つめる。
「うん。もうだいじょうぶ。いっぱいねたから元気になったよ!」
実際には丘を登っただけで息も絶え絶えだけど、それは病み上がりというより、五歳児ボディと前世からの運動不足のせいだ、たぶん。
「それは本当によろしゅうございました。さあどうぞ、中へお入りくださいませ」
階段を上がり、二階のダイニングへと案内される。大きな窓から朝の光が差し込み、その向こうにはヴェルナーの村が広がっている。
ミーナは私たちにハーブティーを淹れてくれた。
「お嬢様にも飲みやすいものを選んでブレンドしております」
彼女が育てているハーブを数種類ブレンドして作ったという特製ハーブティー。口に含むと爽やかな香りが鼻へ抜けて、後味にはほのかな甘みがあった。
(香りも味も互いの良さを殺していない……これだけでも十分商品にできそうなクオリティね)
それだけじゃない。病み上がりの子どもであるセラフィーヌに合わせて、刺激の強いハーブを避けてくれている。
相手の状況から臨機応変に対応できる判断力と、確かな味覚。彼女の料理人としての感覚が衰えていないことを確信する。彼女に協力してもらえたら加工品づくりは一気に進むし、ものすごく頼もしい。
「それで本日は、どのようなご用件でしょうか」
ミーナは私たちの向かいに腰を下ろした。
「お嬢様が、ヴェルナーの野菜や果物を使った新しい商品を作りたいと考えていらっしゃるの」
「新しい商品ですか?」
「うん。あのね、今この領地っておしごとが少ないでしょ?それでね、おやさいをスープにしたりくだものをジャムにしたりして、王都で売りたいとおもってるの」
私はスケッチブックをテーブルに広げて説明する。
「かたちが悪くてもおりょうりにしたら売れるし、ながく保存できるでしょ?ここの村のおいしいやさいを、たくさんの人にたべてもらいたいの!」
「なるほど……」
ミーナの視線が、スケッチブックの上をゆっくりと動く。私はここぞとばかりに身を乗り出した。
「それで、ミーナにセラたちを手伝ってほしくておねがいしにきたんだ」
「と申しますと……?」
「マルタから聞いたの。ミーナはすっごくおりょうりが上手だって」
その瞬間、ミーナの表情が固まって静かに目を伏せた。