死なないで
「紗夜。泣かないで」

視界が涙でぐにゃぐにゃと歪んでいった。

要の胸に顔を押し当てた。

心臓の音がする。

でもそれ以上に自分の泣き声がした。

お願い。そんなこと言ってないよって言って。

僕は優しいよって言って。

「要は殺人はいけないって思うよね」

要の胸に顔を埋めたまま、声をしぼり出した。ほら早くそう思うって言って。

今だけけ要に操り人形でいて欲しい。

そうしたら口を操って、そう思うって言わせるのに。

「紗夜。海汰に会ったの?」

私の願いはボロボロと崩れ落ちた。

そんな答え、あんまりだ。

そんなの肯定してるのと一緒じゃないか。

「ねぇ!」

要の服を掴んで揺さぶった。

要は泣きそうな顔をしていた。

「違うって言って!そんなこと思わないって!」

知らなきゃ良かった。

そうしたら8年、また幸せに暮らせたのに。

要を失った悲しみだっていつか癒えたかもしれない。

あのまま綺麗な要だけ知っている人生を歩めばよかった。

過去になんて戻らなければよかった。

要は泣くばかりで何も言わない。

「最っ低!」

初めて人の顔をビンタした。

じんわりと自分の手まで痛い。

それでも要は何も言わない。

もう一度ビンタをしてやろうと手を振りあげた。

衝撃に備えて要が目をぎゅっと瞑った。

その様子を見て振り上げていた手をさげ、手を握り軽く要の胸を叩いた。

何度も何度も叩いてやった。

そのうち叩き疲れてそっと要の上に全身を預けた。
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