忘れないまま恋をした
3
当たり前は、音もなく壊れた。

颯斗が突然倒れた。

「ちょっと立ちくらみ」

そう笑っていたのに。

検査の結果を聞いた日の、病院の白い廊下を今でも覚えている。

──脳腫瘍。

その言葉が、何度も頭の中で反響した。

怖かった。

でも、きっと一番怖かったのは颯斗だ。

19歳なんて、まだ子供なのに。

私は無理に明るく言った。

「治るんでしょ?」

そう信じたかった。

でも、両親の沈黙でわかった。

簡単じゃない。

私は颯斗のいない場所で泣いた。
声が枯れるまで、何度も。

私の両親も、颯斗を息子みたいに可愛がっていた。

だからこそ、誰よりも辛そうだった。

“もし”が、もう通用しない現実が、そこにあった。
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