忘れないまま恋をした


一度だけ、外に出た。

病院の中庭。

3月と言ってもまだ空気が冷たい。

「少し寒いな」

「無理するからだよ」

マフラーを巻き直す。

車椅子の彼は、少し小さく見えた。

その事実が、どうしようもなく悲しかった。

「来年も一緒に、桜見に行こうな」

あの約束が、最後になるなんて。

あの時の私は、まだ知らない。
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