忘れないまま恋をした
大学の中庭。

義母との電話を切った瞬間、
張りつめていたものが切れた。

しゃがみ込んで、声を殺して泣いた。

「柚?」

名前を呼ばれて顔を上げると、清水直哉が立っていた。

授業初日に声をかけてきた人。
何度あしらっても、なぜか離れない人。

どこまで聞かれていたのか、わからない。

「大丈夫」

反射で笑う。

でも声は震えていた。

直哉は何も聞かなかった。

慰めも、同情も、
踏み込む言葉もない。

ただ、隣に座った。

少し距離をあけて。

「無理すんな」

それだけ。

その一言は、優しすぎなかった。
軽すぎもしなかった。

だから、また涙が溢れた。

隣に“いる”ということが、
こんなにも静かで、あたたかいなんて。

その日、私は初めて知った。
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