営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
 中に入ると、すでに何人かが席についていた。

 プロジェクターの光が、正面のスクリーンに淡く滲んでいる。
 
「時間なので始めてください」

 営業部長の言葉で、室内照明が落とされる。トップバッターなのか、浦沢さんが背筋を伸ばして、壇上の中央に立つ。
 少し緊張しているのか、さっき見せた余裕のある表情は消えて、いつもより口調が固い。それでも相当練習したのだろう。淀みなくプレゼンが始まった。
 スライドが切り替わる。

「今回の企画の目玉は、体験後の動線を個別に変える仕組みです」

 画面には、来場者の行動パターンごとに分岐した導線図が映し出されている。その図面に既視感があり、思わず身体が前に乗り出しかけた。

「各ブースで取得した簡易データをもとに、来場者ごとに次に案内するコンテンツを変えます。
 お手元の資料2をご覧ください。興味関心に応じてルートが分岐するため、滞在の偏りを防ぎつつ、回遊率を上げる設計です」

 気のせいじゃない。勘違いでもない。
 あれは、わたしのプランだ。異動になる直前まで必死に作り上げて、だけど提案すらできずにお蔵入りさせてしまった。
 どうやってあれを盗ったのかという疑問よりも先に、怒りが口をつく。

「……何回やれば気が済むのよ」
 
 そのとき、矢田さんが不安そうにこちらを見ていることに気がついた。目が合うと、さっとそらされる。

 背中がぞくっとして、唐突に理解した。
 ……ああ、そういうことなんだ。
 彼は、わたしをかばわなかったんじゃなくて、最初から向こう側にいたのかもしれない。

 矢田さんは知っていた。
 わたしが手帳の最後のページに、パスワードのヒントを書き留めていたことを。
 デスクで作業したまま、席を外すことがあったことも。

 考えたくもない可能性が脳裏を過り、息が詰まる。
 証拠なんて、どこにもない。
 それでも、一度浮かんだ疑念は、簡単には消えてくれなかった。
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