営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
「来場者が多かった。満足度が高かった。それはイベントとしては悪くない。ただ、今回のクライアントは、前回施策で『効果が見えづらい』ことを問題にしているはずです」

 その言葉に、営業部長がわずかに眉を上げる。

「続けろ、穂積」
「先方が欲しいのは、盛り上がったイベントではなく、社内で予算を通すための材料です。そこがないとコンペには勝てない」

 淡々とした声なのに、反論の余地がない。
 浦沢さんの唇が、ほんのわずかに引きつった。

「……では、営業側としては、どのような指標が必要だとお考えですか?」

 穂積先輩は少しも迷わずに答えた。

「最低限、体験後の行動です。資料請求率、試食後の購入意向、商談化率。
 あとは、来場者を属性ではなく関心度で分けた方がいい。誰が来たかより、何に反応したかを拾わないと意味がない」

 ……わたしがさっき考えていたことに近い。
 同じ企画なのに、穂積先輩が話すとまるで別物みたいに見えた。
 営業部長が仕切り直しをするように口を開いた。

「浦沢さんの企画の方向性自体は悪くない。
 ただ、今のままだと営業が持っていく資料としては弱い。穂積の指摘を踏まえて、成果指標と提案の根拠を追加してください」
「……はい。承知しました」

 浦沢さんは頭を下げた。
 悔しそうな色を一瞬だけ浮かべたけれど、すぐにいつもの柔らかい表情に戻る。

「では、次回までに修正します」

 会議はそのまま、別案件の確認へ移っていった。
 わたしは手帳に視線を落としながら、ペンを握り直す。

 ……悔しい。
 あれは、わたしのプランだった。

 でも、それだけじゃない。
 穂積先輩の指摘で、わたしは初めて思い知った。

 企画は、面白いだけでは通らない。
 誰かを納得させるための数字と、持ち帰れる理由が必要なのだ。

 会議が終わる頃には、手帳の余白がメモで埋まっていた。
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