営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
「……どこでその話を?」
「もう全社メール、回ってますよ」
「え!?」

 メーラーを立ち上げると、人事異動一覧の中に確かにわたしの名前がある。
 マウスに置いた手のひらに、嫌な汗が滲む。

「でも、ちょうど良かったんじゃないですか?」
「……なにが?」
「鮎川さん、真面目ですから、ああいう部署の方が合ってると思いますよ」
「……どの部署が合ってるかなんて、浦沢さんに決められたくない」
「でも鮎川さんの担当、半分以上は私が引き継ぐんですよね。あまり企画に未練を残されると困りますし」

 ……冗談でしょう? そう言いかけた言葉を、なんとか飲み込んだ。
 彼女はわたしを嘲笑うようにくすりと笑って、少しだけ首を傾げる。

「企画って、結果がすべてじゃないですか。通らない案をいくら積み重ねても、評価には繋がりませんし」
「結果だけがすべてって……わたしはそうは思わない」

 結果が出なくても、積み重ねてきた努力には意味があるはずだ。
 そう思いたいのに、浦沢さんは正論を盾にする。

「どう思うかは自由ですけど、鮎川さんのそういう甘さが、異動を招いたんじゃないですか?」

 言われている言葉の意味が、一拍遅れて頭の中に入り込む。
 理解した瞬間、怒りとは別の感情が冷えていくのがわかった。
 気づけば、言うつもりのなかった言葉が口からこぼれる。

「……あの企画」

 自分でも驚くほど低い声が出た。

「わたししか、知らないはずの構成でしたよね」
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