営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
 ◇

 午後一時の開場から二時間後。
 メイン広場の中央には、人だかりができていた。
 マジックショーが始まったらしく、どよめきと拍手が波のように広がっている。
 あちらが、今回の主力商品を扱うメインブースだ。

 それに対して、穂積先輩の指示で回されたこの場所は、動線の途中に設けられた体験ブースだった。
 来場者がついでに立ち寄る位置にある。
 通路を流れていく人の視線は一度パネルに向くが、そのまま素通りしてしまう。手に取る人はいるものの、その先の説明員には繋がらない。

「この時間帯は……動線、弱いのかも」

 思わず小さく呟いたときだった。

「そうですね。弱いです」

 横から、あっさりと肯定された。
 振り向くと、腕章をつけた若い男性が立っている。スーツにうちの会社の社章をつけていることから、身内だと気づいた。
 
「本社営業部の鮎川です。よろしくお願いします」
「大阪支社の服部です。今回、こちらのブースのサポートに入ってます」
「ありがとうございます」
「鮎川さんは穂積さんの部下ですか?」
「指導員をしていただいています。
 ……あの、服部さんは先ほど、動線が弱いって言いましたよね」
「そうですね。今の状態だと、興味喚起はできてるけど、その先に繋がってないと思います。まあ、想定内ですけど」

 さらっと言いながら、服部さんはタブレットに視線を落とした。

「想定内、ですか?」
「ええ。日用品って、目的買いが多いんで。わざわざ立ち止まって体験する人って、そんなに多くないですよ」

 言い方に棘はない。けれど、それをなんとかするのが仕事じゃないのだろうか。

「……でも、このままだと、体験数が伸びないですよね」
「そうですね。厳しいと思います」

 あまりにもあっさりと即答され、さすがに面食らった。

「……じゃあ、どうするんですか? クライアントが一番求めてるのって、そこですよね」

 食い下がると、服部さんは少しだけ肩を竦めた。

「どうもしないです。これ、大阪支社のメイン案件じゃないですし」
「……え?」
「この規模のブースで体験数を伸ばすの、正直コスパ悪いですよ」
「コスパって……」
「優先順位の話です。限られたリソースで全部完璧にやるのは無理なんで」

 理屈はわかる。
 けれど、クライアントに聞かれたら困るような言葉の数々に、背筋が冷えた。
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