営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
「……へえ」

 服部さんが半笑いの顔で言った。

「一応、止まるようにはなりましたね」
「……そうですね」

 何かを言い返したくなる自分を、必死に飲み込む。それをしたところで、意味はない。
 それに、これで終わりじゃない。むしろ、ここからだ。

 そう思ったときだった。

「……何をやってる」

 低い声が背後から落ち、振り向くと、いつもの不機嫌そうな顔をした穂積先輩が立っていた。
 いつから見ていたのかはわからない。

「すみません。勝手に動きました」

 先に頭を下げたが、そんな態度を彼は気にも留めない。返されたのは、短く一言。

「……状況は?」
「通路で興味は引けているんですが、体験に繋がっていなかったので、訴求を絞って動線を少し内側に寄せました。ただ──」

 言いながら、自分で気づく。

「このままだと、説明の質にばらつきが出ます」
「だろうな」

 穂積先輩はブース全体を見渡し、スタッフの動き、来場者の流れ、商品の配置を一瞬で見て取る。

「方向は間違ってない」
「本当ですか?」
「ああ。ただ、それだと一瞬の興味だけで終わる」

 そのまま、先輩がチーフ格のスタッフに声を掛けた。

「説明は三つに絞ってください。誰がやっても同じになるように」
「三つですか?」
「ターゲット、変化点、使用シーン。それ以外は言わなくていいです」
「は、はい」
「あと、ここ」

 商品台をほんの数センチだけずらす。

「手に取ったら、そのまま説明員の視線に入る位置に移動させます」
「なんのためにですか?」
「……これで、来場者が試す理由と、試した後の動線が一本になります」

 穂積先輩はそう言って、ようやくこちらを見た。

「お前のプラン、半分は良かった」

 その一言に、息が止まる。

「それと、自分で判断して動いた点は評価する」
「あ、ありがとうございます……」
「ただ、最後まで設計できてない。だから中途半端になる」
「……はい」

 悔しさが、じわりと込み上げる。

「細部を詰めろ。そこまでやって初めて仕事になる」
「はい」
「じゃあ、ここは任せた。何かあったら連絡してくれ」
「了解です」

 去って行く後ろ姿を見つめながら、残された言葉の重さだけが、しばらく耳から離れなかった。

 『半分は良かった』

 耳に残る、低い声と褒め言葉。
 それだけで、少しだけ救われた自分がいた。
 だけど同時に、わかってしまった。

 ……穂積先輩と同じ景色を見るには、まだ全然足りない。
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