営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
ため息をついていると、服部さんに後ろから声を掛けられた。
「……穂積さんって、あんなふうに人を褒めることあるんですね」
「え?」
「半年前かな。本社の研修で一緒になったときは、厳しい言葉しか聞かなかったから」
「そうなんですか?」
「うん。だから正直、全然好きになれなくて。今日だって、こっちは応援に来てるのに、労いの言葉ひとつないしさ、相変わらず嫌な奴って思ってたけど、……今の、穂積さんにしてはかなり甘い方だと思いますよ」
そんなふうに言われると、まるでわたしが特別みたいだけど、現実は全然そうじゃない。
「穂積先輩は厳しいですけど、結果を出せばちゃんと評価してくれますよ」
「……それじゃこっちが無能みたいじゃん」
「あ、いえっ。そういうつもりでは……」
慌てて否定すると、服部さんは「はあ」とため息をついた。
「……いや、いいよ。そう取られても仕方ない態度だった。このあとはもっと真面目にやるからさ、今までのは見逃して」
「はい」
「とはいっても、全部は納得してないけど」
そう言いながらも、服部さんは最初の態度はなんだったのかと言うほど、きっちりと自分の役割を果たしてくれて、イベント初日は想定よりも順調に終わった。
来場者が去って行った会場で明日の準備をしていると、穂積先輩が紙袋を両手に持ってやってきた。
「服部」
「はい、なんでしょうか」
「今日は悪かったな。これ、大阪支社のメンバーの夕飯。全員分あるはずだけど、足りなかったら教えてくれ」
「……これっ、雅亭の松花堂弁当じゃないですか」
「気に入らなかったか?」
「じゃなくて、経費で落ちます?」
「……落ちるわけないだろ。俺の持ち出しだ」
「うわ、やべえ。……じゃなくて、ありがとうございます」
服部さんが頭を下げると、穂積先輩がふっと表情を緩めた。
「いや、ただの賄賂みたいなもんだ。俺らは明日、午前中で帰るから、堂本チーフに後を頼んではあるけど、他のメンバーにもよろしく伝えて欲しい」
「……そこまでされると、さすがに文句言いづらいですね」
穂積先輩は満足そうな顔をしたあと、表情を真顔に戻してわたしを見た。
「鮎川。そろそろ引き上げるけど、いいか?」
「……あの、ちなみにわたしの分は……?」
「あるわけないだろ」
……ひどい!
そう思ったけど、口にはできなかった。
服部さんと目が合うと、彼は「どんまい」と言いたげに、親指を立てていた。
「……穂積さんって、あんなふうに人を褒めることあるんですね」
「え?」
「半年前かな。本社の研修で一緒になったときは、厳しい言葉しか聞かなかったから」
「そうなんですか?」
「うん。だから正直、全然好きになれなくて。今日だって、こっちは応援に来てるのに、労いの言葉ひとつないしさ、相変わらず嫌な奴って思ってたけど、……今の、穂積さんにしてはかなり甘い方だと思いますよ」
そんなふうに言われると、まるでわたしが特別みたいだけど、現実は全然そうじゃない。
「穂積先輩は厳しいですけど、結果を出せばちゃんと評価してくれますよ」
「……それじゃこっちが無能みたいじゃん」
「あ、いえっ。そういうつもりでは……」
慌てて否定すると、服部さんは「はあ」とため息をついた。
「……いや、いいよ。そう取られても仕方ない態度だった。このあとはもっと真面目にやるからさ、今までのは見逃して」
「はい」
「とはいっても、全部は納得してないけど」
そう言いながらも、服部さんは最初の態度はなんだったのかと言うほど、きっちりと自分の役割を果たしてくれて、イベント初日は想定よりも順調に終わった。
来場者が去って行った会場で明日の準備をしていると、穂積先輩が紙袋を両手に持ってやってきた。
「服部」
「はい、なんでしょうか」
「今日は悪かったな。これ、大阪支社のメンバーの夕飯。全員分あるはずだけど、足りなかったら教えてくれ」
「……これっ、雅亭の松花堂弁当じゃないですか」
「気に入らなかったか?」
「じゃなくて、経費で落ちます?」
「……落ちるわけないだろ。俺の持ち出しだ」
「うわ、やべえ。……じゃなくて、ありがとうございます」
服部さんが頭を下げると、穂積先輩がふっと表情を緩めた。
「いや、ただの賄賂みたいなもんだ。俺らは明日、午前中で帰るから、堂本チーフに後を頼んではあるけど、他のメンバーにもよろしく伝えて欲しい」
「……そこまでされると、さすがに文句言いづらいですね」
穂積先輩は満足そうな顔をしたあと、表情を真顔に戻してわたしを見た。
「鮎川。そろそろ引き上げるけど、いいか?」
「……あの、ちなみにわたしの分は……?」
「あるわけないだろ」
……ひどい!
そう思ったけど、口にはできなかった。
服部さんと目が合うと、彼は「どんまい」と言いたげに、親指を立てていた。