営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
会場を出ると、辺りはすっかり暮れていて、夜風に髪が靡いた。
半日以上立ちっぱなしだった足は棒のようで、いくらヒールが低くても、かかとはもう限界に近い。
穂積先輩は迷わずに目の前のタクシーを一台捕まえて、いつもとは違い、自分が先に乗り込んだ。目線だけで、わたしに乗れと促す。
隣に乗り込み、不思議に思って尋ねた。
「電車じゃないんですか……?」
「ああ、ホテルに帰る前に、食事くらいしたいだろ?」
「え? あのでも……」
「それとも、コンビニ弁当で済ませたい? ここで降りるか?」
「いえっ。まさか! 大阪グルメ、大好きです!」
「あ、そ。ならよかった。大阪に来ると絶対に行く鉄板焼きの店を予約したから」
「ええっ。こんなボロボロの状態で、そんないい店には……」
「心配しなくても、普通の店だし今日は俺のおごりだ」
「ど、どうしたんですか? 穂積先輩、今日は会う人全員に奢らないと呪われる病気にでも……」
「かかってねえよ。……そんなに自分で払いたいなら、割り勘でもいいけど」
「いえっ。ありがたくご馳走になります!」
そこまで言ってから、ふと思い出す。
「あのでも……そういえば、次はわたしがご馳走するって約束した気がします」
「そんな約束したか?」
「初めてランチをご馳走になった日に……」
そう伝えると、穂積先輩は思い当たったように、「ああ」と頷いた。
「したな。そんな約束。……でもまあ、いいよ」
「いいんですか?」
「鮎川は辞めなかったし、今日もよくがんばったし」
「…………っ」
「でも、これで来週のロープレ審査に落ちたら、そのときは……」
「そのときは?」
「五倍返ししてもらう」
「いやがらせじゃないですか!」
「はははっ」
夜の街を、タクシーがゆっくりと進んでいく。
狭い車内でお互いの肩が何度も触れ合う。それなのに、今朝の新幹線で感じたような落ち着かなさは、なぜかもうなかった。
半日以上立ちっぱなしだった足は棒のようで、いくらヒールが低くても、かかとはもう限界に近い。
穂積先輩は迷わずに目の前のタクシーを一台捕まえて、いつもとは違い、自分が先に乗り込んだ。目線だけで、わたしに乗れと促す。
隣に乗り込み、不思議に思って尋ねた。
「電車じゃないんですか……?」
「ああ、ホテルに帰る前に、食事くらいしたいだろ?」
「え? あのでも……」
「それとも、コンビニ弁当で済ませたい? ここで降りるか?」
「いえっ。まさか! 大阪グルメ、大好きです!」
「あ、そ。ならよかった。大阪に来ると絶対に行く鉄板焼きの店を予約したから」
「ええっ。こんなボロボロの状態で、そんないい店には……」
「心配しなくても、普通の店だし今日は俺のおごりだ」
「ど、どうしたんですか? 穂積先輩、今日は会う人全員に奢らないと呪われる病気にでも……」
「かかってねえよ。……そんなに自分で払いたいなら、割り勘でもいいけど」
「いえっ。ありがたくご馳走になります!」
そこまで言ってから、ふと思い出す。
「あのでも……そういえば、次はわたしがご馳走するって約束した気がします」
「そんな約束したか?」
「初めてランチをご馳走になった日に……」
そう伝えると、穂積先輩は思い当たったように、「ああ」と頷いた。
「したな。そんな約束。……でもまあ、いいよ」
「いいんですか?」
「鮎川は辞めなかったし、今日もよくがんばったし」
「…………っ」
「でも、これで来週のロープレ審査に落ちたら、そのときは……」
「そのときは?」
「五倍返ししてもらう」
「いやがらせじゃないですか!」
「はははっ」
夜の街を、タクシーがゆっくりと進んでいく。
狭い車内でお互いの肩が何度も触れ合う。それなのに、今朝の新幹線で感じたような落ち着かなさは、なぜかもうなかった。