営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
◇
翌週、出張の疲れを多少引きずりながら迎えたロープレ審査は、無事に合格だった。
会議室には営業課長とエリアマネージャー、そして指導員の穂積先輩が並び、普段の営業同行でも感じないほど張り詰めた空気が漂っていた。これが就活なら、まるで圧迫面接だ。
それでも終わってみれば、何かを確実に乗り越えた手応えがあった。
「鮎川さんには、まず既存顧客を割り振るけど、それだけじゃなく積極的に新規を取りに行って欲しい」
「はい。頑張ります」
課長の言葉にはっきりと返事をしながら、少しだけ心が浮き立つ。
この一週間、夢の中まで追いかけてきたロープレ審査からようやく解放されたのだ。
……とはいえ、安堵している暇はなかった。
「鮎川。今日、午後空いてるか」
会議室を出た穂積先輩が、すぐに声を掛けてきた。
「午後ですか? 空いています」
「什器をいくつか明日のイベント会場に運ぶことになってる。手順を教えるから、十四時に地下の駐車場に来てくれ。社用車の準備をしておくから」
「わかりました」
「お前、運転免許は?」
「一応、持ってますけど……」
学生時代に免許は取ったけれど、ほぼペーパードライバーだ。首都高速なんて走れる気が全くしない。
「その顔じゃ、今日の運転を任せるのは無理そうだな」
「すみません……」
「いや、俺も最後の同行で事故られても困るしな」
「最後……」
「じゃあ、あとで」
「はい」
そうか。独り立ちすれば当然、穂積先輩と一緒に営業に行くことはなくなるんだ。至極当たり前のことなのに、そう思った瞬間、どこかに引っかかるものを感じた。
……どうしてだろう。
初めの頃は、早くロープレに受かって独り立ちしたいとあんなに思っていたのに。
言葉にできない違和感を抱えたまま、指定された時間に地下駐車場へ向かう。
コンクリートのひんやりとした空気と、排気ガスが混ざった匂い。心許ない気持ちになるのは、若干迷子になっているせいだ。
前に社用車の場所は教えてもらったはずなのに、なぜかメモした番号のところには車がなくて、一人でうろうろしているときだった。
聞き慣れた声が、耳に入る。
「……だから、きっと穂積さんは誤解されてるんだと思います」
反射的に足を止める。
視線の先にいたのは、穂積先輩と──浦沢さんだった。
翌週、出張の疲れを多少引きずりながら迎えたロープレ審査は、無事に合格だった。
会議室には営業課長とエリアマネージャー、そして指導員の穂積先輩が並び、普段の営業同行でも感じないほど張り詰めた空気が漂っていた。これが就活なら、まるで圧迫面接だ。
それでも終わってみれば、何かを確実に乗り越えた手応えがあった。
「鮎川さんには、まず既存顧客を割り振るけど、それだけじゃなく積極的に新規を取りに行って欲しい」
「はい。頑張ります」
課長の言葉にはっきりと返事をしながら、少しだけ心が浮き立つ。
この一週間、夢の中まで追いかけてきたロープレ審査からようやく解放されたのだ。
……とはいえ、安堵している暇はなかった。
「鮎川。今日、午後空いてるか」
会議室を出た穂積先輩が、すぐに声を掛けてきた。
「午後ですか? 空いています」
「什器をいくつか明日のイベント会場に運ぶことになってる。手順を教えるから、十四時に地下の駐車場に来てくれ。社用車の準備をしておくから」
「わかりました」
「お前、運転免許は?」
「一応、持ってますけど……」
学生時代に免許は取ったけれど、ほぼペーパードライバーだ。首都高速なんて走れる気が全くしない。
「その顔じゃ、今日の運転を任せるのは無理そうだな」
「すみません……」
「いや、俺も最後の同行で事故られても困るしな」
「最後……」
「じゃあ、あとで」
「はい」
そうか。独り立ちすれば当然、穂積先輩と一緒に営業に行くことはなくなるんだ。至極当たり前のことなのに、そう思った瞬間、どこかに引っかかるものを感じた。
……どうしてだろう。
初めの頃は、早くロープレに受かって独り立ちしたいとあんなに思っていたのに。
言葉にできない違和感を抱えたまま、指定された時間に地下駐車場へ向かう。
コンクリートのひんやりとした空気と、排気ガスが混ざった匂い。心許ない気持ちになるのは、若干迷子になっているせいだ。
前に社用車の場所は教えてもらったはずなのに、なぜかメモした番号のところには車がなくて、一人でうろうろしているときだった。
聞き慣れた声が、耳に入る。
「……だから、きっと穂積さんは誤解されてるんだと思います」
反射的に足を止める。
視線の先にいたのは、穂積先輩と──浦沢さんだった。