営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
目が合った瞬間、妙に気圧されて、反射的に背筋が伸びた。
愛想がないのか、そういう顔立ちなのか、下手なことを口にしたら怒られそうな気配がある。
立ち上がり、お辞儀をしながら謝った。
「あの、席を移っていただいてすみません。でもわたし、大丈夫なので……」
「いいって。榊が勝手なこと言ったんだろ」
榊さんは笑いながら、新しいおしぼりとグラスを男性の前に置いた。
「とりあえず、座ったら?」
「……あ、はい。失礼します」
「いや、会社じゃないんだから、もうちょっと砕けていいんだけど」
「はい。すみません……」
「話、通じねえな」
言葉は乱暴だけど、声は柔らかい。タクマさんは笑いながら、グラスに注がれた焼酎に口をつけた。
「……で、何が聞きたいって?」
「美月ちゃんは営業に異動になったらしくてさ……」
「いや、いいよ」
榊さんの言葉を、タクマさんが遮った。
「悩みがあるなら、自分の口で説明できるだろ?」
「う……あ、はい……」
「それとも別に話したくない? ならそれでいいけど」
そう突き放されると、急に不安な気持ちになる。少しだけ勇気を出し、思い切って尋ねることにした。
「あの……タクマさんは、営業職の方なんですよね……?」
「ああ。そうだな」
「わたし、営業なんて自分にできるのか自信がなくて……」
「そんなもんだろ。普通は」
「え?」
なんでもないことのように言われて、思わず彼を真顔で見つめた。
「経験ないのに自信満々な奴のほうが珍しくないか?」
「……あ、ですよね……」
「最初はうまく行かなくて普通。必要なのは、自信より慣れだ」
「……なるほど」
そう指摘されると、自分が一体何を悩んでいたのか、急にわからなくなる。
ふと、ビールがすっかり手の中で温くなっていたことに気がつき、もう一杯頼もうと榊さんの方を見た。
「無理するな」
「え?」
「顔が赤いし、そんなに好きでもないんだろ?」
無意識に握りしめていたビアグラスと、タクマさんの顔を交互に見た。
「……あ、えっと……」
「飲みたいなら止めないけど」
「いえ……ちょっと酔いたいと思っただけで、本当はそんなにお酒好きじゃないです……」
なんで見抜かれたんだろうか。
そう思いながら首を傾げていると、ソフトドリンクのメニューを渡された。
タクマさんが勧めてくれた自家製シロップのジンジャエールを注文する。
一口飲むと、底にたまった生姜シロップが甘苦くて、頭がすっと整理された気がした。
「それで、本当に話したいことはなんだった?」
「話したいっていうか……」
そこからぽつりと、会社では飲み込むしかなかった言葉を、わたしはゆっくりと話し始めた。
愛想がないのか、そういう顔立ちなのか、下手なことを口にしたら怒られそうな気配がある。
立ち上がり、お辞儀をしながら謝った。
「あの、席を移っていただいてすみません。でもわたし、大丈夫なので……」
「いいって。榊が勝手なこと言ったんだろ」
榊さんは笑いながら、新しいおしぼりとグラスを男性の前に置いた。
「とりあえず、座ったら?」
「……あ、はい。失礼します」
「いや、会社じゃないんだから、もうちょっと砕けていいんだけど」
「はい。すみません……」
「話、通じねえな」
言葉は乱暴だけど、声は柔らかい。タクマさんは笑いながら、グラスに注がれた焼酎に口をつけた。
「……で、何が聞きたいって?」
「美月ちゃんは営業に異動になったらしくてさ……」
「いや、いいよ」
榊さんの言葉を、タクマさんが遮った。
「悩みがあるなら、自分の口で説明できるだろ?」
「う……あ、はい……」
「それとも別に話したくない? ならそれでいいけど」
そう突き放されると、急に不安な気持ちになる。少しだけ勇気を出し、思い切って尋ねることにした。
「あの……タクマさんは、営業職の方なんですよね……?」
「ああ。そうだな」
「わたし、営業なんて自分にできるのか自信がなくて……」
「そんなもんだろ。普通は」
「え?」
なんでもないことのように言われて、思わず彼を真顔で見つめた。
「経験ないのに自信満々な奴のほうが珍しくないか?」
「……あ、ですよね……」
「最初はうまく行かなくて普通。必要なのは、自信より慣れだ」
「……なるほど」
そう指摘されると、自分が一体何を悩んでいたのか、急にわからなくなる。
ふと、ビールがすっかり手の中で温くなっていたことに気がつき、もう一杯頼もうと榊さんの方を見た。
「無理するな」
「え?」
「顔が赤いし、そんなに好きでもないんだろ?」
無意識に握りしめていたビアグラスと、タクマさんの顔を交互に見た。
「……あ、えっと……」
「飲みたいなら止めないけど」
「いえ……ちょっと酔いたいと思っただけで、本当はそんなにお酒好きじゃないです……」
なんで見抜かれたんだろうか。
そう思いながら首を傾げていると、ソフトドリンクのメニューを渡された。
タクマさんが勧めてくれた自家製シロップのジンジャエールを注文する。
一口飲むと、底にたまった生姜シロップが甘苦くて、頭がすっと整理された気がした。
「それで、本当に話したいことはなんだった?」
「話したいっていうか……」
そこからぽつりと、会社では飲み込むしかなかった言葉を、わたしはゆっくりと話し始めた。