営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
「……入社して五年経つんですけど、ずっと企画部にいて、必死に働いてきました」
「うん」
「好きだったんです。その仕事が。自分のアイデアが形になって、誰かに届くのが」

 一度言葉を切って、グラスを握る手に力を込める。

「……でも今日いきなり、営業に配置換えになって……」

 そんな弱音とも、愚痴ともつかない言葉をぽつりと語る。
 隣の男性は、茶々を入れるでもなく、安っぽく慰めるでもなく、ただ黙って話を聞いている。その聞き方が、かえって信頼できた。

「本当にやっていけるのかな……」
 
 そう小声で呟くと、タクマさんは頬杖をやめてこちらに向き直った。

「それで、あんたはどうしたい?」
「え?」
「早く企画に戻りたいとか?」
「……そうです、けど」
「今の話を聞いている限り、茨の道だろうな」
「……っ」
「まあ、まったく無理とは言わねえけど、時間はかかるんじゃないか?」

 まるで自分を無能と言われたようで、瞬間的に、顔が熱くなる。

「どうしてそう思うんですか」
「……あんたが企画に戻りたいなら、普通に考えて、必要最低条件はひとつ」
「ひとつ……?」
「そ。営業で圧倒的な成績を出すことだ」
「それは……」

 そうかもしれない。
 少なくとも、営業部でくすぶっている限り、復帰の芽は見えてこないだろう。

「でも今のままのあんたには、まず無理だろ」
「な、なんでですか?」

 聞き捨てならない言葉に、声が上擦った。

「……企画と営業の違いが何かわかるか?」
「え? ……企画は商品を考える仕事で、営業は売る仕事、ですよね?」
「そう。つまり、企画は仮説で、営業は現実だ。今と同じスタンスで現場に行けば、嫌というほどそれを思い知ることになる」
「でも……だからって、初めからわたしに何もできないって決めつけるの、失礼じゃないですか?」

 タクマさんの言葉に、思わず食らいついた。

「そう思うなら、結果を出せばいい。どの会社でも、数字を持ってる人間にはみんな一目置くもんだ」
「…………」

 それはそうだろうけど、いきなりの正論に、相談相手を間違えたかもしれないと思い始める。
 ただでさえ不安なのに、余計に落ち込んでしまう。

「ま、別に、俺には関係ない話だけど」

 そんなふうに突き放されると、胃の裏側がきゅうっと痛くなる。
 俯いていると、タクマさんがカウンターの向こうに声を掛けた。
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