営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
今回のプロモーションは、一週間の予定だ。
施策初日。平日の午後にもかかわらず、駅前エリアの店内は人の流れが途切れなかった。
入口近くに設けられた特設スペース。広告に起用している人気モデルのポスターに引き寄せられるように、来場者が足を止める。
「わあ、このポスター欲しい!」
「導入美容液って使ったことないけど、いいのかな」
近づいてくる女性に、スタッフがすかさずカタログを手に説明をする。
「洗顔後のお肌を柔らかく整えることで、その後に使う化粧品のなじみ方が変わるんです」
「これって試せるんですか?」
「はい。もちろんです」
指先で薄く伸ばされた美容液が、手の甲にすっと拡がる。次に化粧水を含ませたコットンで肌を撫でると、女性が感嘆の声を上げた。
「……あ、ほんとだ。全然しっとり感が違う」
「へえ、こんなに効果があるんだ」
その声が聞こえたのか、付近にいた数人の女性が興味を示したようにこちらに視線を向けた。
ちゃんと顧客が足を止めて、体験を受け入れている。誰の反応も悪くない。
……やっぱり、体験をすればちゃんと伝わるんだ。
その感触は、確かにあった。
けれど数分後、わたしは現実を思い知る。
興味は持たれる。反応もある。だけど、商品を持ってレジに向かう人の数が、圧倒的に少ない。
気づいたときには、同じ流れが何度も繰り返されていた。
じりじりと、首の後ろが焦げたように嫌な感覚が走る。いても立ってもいられず、付近の店舗で展開している蝦名さんの担当エリアへ向かった。
そこにはスタッフはいない。シンプルに並べられた商品と、目を引くPOP。サンプル提供のお得感も相俟ってか、迷いなく商品が手に取られていく。
その差は、あまりにも明確だった。
「……そちらの売り場は、どう?」
いつの間にか隣に立っていた蝦名さんが、静かに尋ねた。
「体験の反応はいいんじゃない?」
「……はい。反応は……」
「でも、売れてない……でしょ?」
事実を当てられ、返事ができない。
「鮎川さんの発想自体は悪くないと思う。ただ、この場所でそれをやるのは、ちょっと贅沢かもしれないわね」
否定されたわけじゃないのに、それ以上のダメージを受けるのはなぜなんだろうか。
自分には見えていないものが、蝦名さんにはきっと見えている。だけど、頭を下げてそれを教えてもらうのは、どうしても嫌だった。
……悔しい。体験すれば伝わる。それ自体は間違いじゃないはずなのに、売上に繋がっていない。
今日のわたしでは、蝦名さんにまったく敵わなかった。
施策初日。平日の午後にもかかわらず、駅前エリアの店内は人の流れが途切れなかった。
入口近くに設けられた特設スペース。広告に起用している人気モデルのポスターに引き寄せられるように、来場者が足を止める。
「わあ、このポスター欲しい!」
「導入美容液って使ったことないけど、いいのかな」
近づいてくる女性に、スタッフがすかさずカタログを手に説明をする。
「洗顔後のお肌を柔らかく整えることで、その後に使う化粧品のなじみ方が変わるんです」
「これって試せるんですか?」
「はい。もちろんです」
指先で薄く伸ばされた美容液が、手の甲にすっと拡がる。次に化粧水を含ませたコットンで肌を撫でると、女性が感嘆の声を上げた。
「……あ、ほんとだ。全然しっとり感が違う」
「へえ、こんなに効果があるんだ」
その声が聞こえたのか、付近にいた数人の女性が興味を示したようにこちらに視線を向けた。
ちゃんと顧客が足を止めて、体験を受け入れている。誰の反応も悪くない。
……やっぱり、体験をすればちゃんと伝わるんだ。
その感触は、確かにあった。
けれど数分後、わたしは現実を思い知る。
興味は持たれる。反応もある。だけど、商品を持ってレジに向かう人の数が、圧倒的に少ない。
気づいたときには、同じ流れが何度も繰り返されていた。
じりじりと、首の後ろが焦げたように嫌な感覚が走る。いても立ってもいられず、付近の店舗で展開している蝦名さんの担当エリアへ向かった。
そこにはスタッフはいない。シンプルに並べられた商品と、目を引くPOP。サンプル提供のお得感も相俟ってか、迷いなく商品が手に取られていく。
その差は、あまりにも明確だった。
「……そちらの売り場は、どう?」
いつの間にか隣に立っていた蝦名さんが、静かに尋ねた。
「体験の反応はいいんじゃない?」
「……はい。反応は……」
「でも、売れてない……でしょ?」
事実を当てられ、返事ができない。
「鮎川さんの発想自体は悪くないと思う。ただ、この場所でそれをやるのは、ちょっと贅沢かもしれないわね」
否定されたわけじゃないのに、それ以上のダメージを受けるのはなぜなんだろうか。
自分には見えていないものが、蝦名さんにはきっと見えている。だけど、頭を下げてそれを教えてもらうのは、どうしても嫌だった。
……悔しい。体験すれば伝わる。それ自体は間違いじゃないはずなのに、売上に繋がっていない。
今日のわたしでは、蝦名さんにまったく敵わなかった。