営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
 ◇

 初日の施策を終えたあとも、頭の中はずっと同じところをぐるぐる回っていた。今日の夜空は星がどこか遠い。電車に揺られながら窓の向こうを眺め、ぼんやりと考える。

 反応は悪くなかった。実際に手に取って、違いを感じてくれた人もいた。
 それなのに、購入には繋がらない。
 商品の良さに頷き、納得して、それで終わる。商品棚に視線すら向けないまま、去っていく背中を何度見送っただろう。

 蝦名さんのエリアとの差は、見て見ぬふりができるレベルじゃない。
 何が悪くて、どうすればいいのか?
 問いだけが残って、答えが出ない。

 思考を切り替えたくて、スマートフォンを取り出す。
 ふと、メッセージアプリの連絡先の一覧の中にある名前に、指が止まった。
 ……穂積先輩。
 あの人なら、この状況をどう整理するかも、何を優先するべきかも、全部わかっているはずだ。
 質問をぶつけたら、もしかしたら答えをくれるかもしれない。
 だけど……。
 そのまま何もせずに、画面を閉じた。
 ここで先輩を頼ったら、この先壁にぶつかるたびに、同じことをしたくなるかもしれない。そんな自分にはなりたくなかった。
 これは、自分で考えなきゃいけないことだ。
 そう決意すると、少しだけ呼吸が整った。

 昨日に続き、午後までの営業予定をすべて終えてから同じ店舗へ向かった。ドラッグストアの中はまだそこまで混雑していない。ピークはこのあと、駅が混雑するタイミングと同じく夕方から夜にかけてだ。

 昨日と同じ場所に立つ。何か新しい策を打ち出せたらいいけど、一晩悩んでも何も答えは出なかった。
 それでも、ここで諦めるわけにはいかない。

 そう思ったときだった。

「まだやるのね」

 背後から落ち着いた声がした。振り向くと、長い髪を品良くまとめた蝦名さんが立っていた。

「話がしたいんだけど、ここでは無理だから、場所を移しましょうか」
「……はい」

 店外に出て行く蝦名さんの後ろに続く。
 彼女はぎりぎり店の中が見える人通りのない路地で足を止めて、こちらをまっすぐに見つめた。

「正直、昨日の時点で方向は見えたと思うんだけど。そろそろ体験、やめた方がいいんじゃないかな」

 責めているわけじゃない。ただ、事実を述べているだけの涼やかな声音だった。
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