営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
 今日の日報の数字で、穂積先輩は達成率150%を超えていた。月末までまだ十日以上あるにもかかわらずだ。
 相変わらず、遠い存在であることには変わりない。
 ……だけど。
 少しだけ、本当にほんの少しだけ、近づいたと思ってもいいだろうか。

 そう思って、穂積先輩に声を掛けようとしたときだった。

「あら、まだ人がいたのね」

 入口の方から声を掛けられ、首を向けると蝦名さんが立っていた。
 こんな夜更けにもかかわらず、メイクも髪も全く隙がないその立ち姿は、仕事ができる女性そのものだ。

「鮎川さん、今日はお疲れ様」
「いえっ。こちらこそありがとうございました」

 立ち上がってお礼を言うと、彼女は「よく頑張ったんじゃない?」と労うように言った。
 
「あら……穂積くんもまだいたの?」
「ああ、さっき茨城から帰ってきたとこ」
「徳田電工の件かしら」

 先輩の行動予定なんて全然把握していなかった。
 それだけで、自分だけが場違いみたいに思えた。
 穂積先輩も蝦名さんも、年齢だけならそこまで離れてないはずなのに、あまりに差がある。
 
「他人の行き先までよく知ってるな」
「ライバルの動向チェックは基本でしょ。……ねえ、よかったら来週のコンペについて、いま質問してもいいかしら?」
「ああ。構わない。そこのテーブルでいいか?」
「もちろん」

 二人は壁際の打ち合わせスペースに移動して、綿密に何かを話し合っていた。時折漏れ聞こえる単語で、何か大きな数字が動いていることはわかるが、具体的にはさっぱりだ。
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