営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
 ◇

 駅直結の大型商業施設に入ると、平日の夕方にもかかわらず人の流れは途切れていなかった。
 改札からそのまま流れ込んでくる客と、上階から降りてくる客が交差している。

「……人の層が幅広いな」

 穂積先輩が、エントランスの天井を見上げながら呟いた。
 吹き抜けになった構造で、中央は視界が大きく開けている。その分、奥に入ると視線が途切れて、空気が少し落ち着く。

「この辺りがメイン導線か」
「はい。駅からの流れはほぼここを通りますね」

 足を止めずに観察しながら、周囲の動きを追う。
 企画にいた頃は、どれだけ印象に残るかばかりを考えていた。
 けれど営業として見る動線は、その先で手に取ってもらえるかどうかがすべてなのだ。

 そのとき、ふと視界の端に鮮やかな色が飛び込んできた。

「先輩、あれ……」

 指さした先には、期間限定のポップアップストアが設置されていた。
 白を基調にしたブースに、柔らかい照明がかかっている。
 入口付近では、ブランドのロゴ入りTシャツを着たスタッフが、来場者に声を掛け、奥では商品を手に取る人の姿が見える。

「スキンケアブランドの立ち上げみたいですね」

 近づいて様子を見ると、体験スペースと販売スペースが分けられているのが分かる。
 手前で簡単な説明と試用を行い、興味を持った人だけが奥へ進む動線だ。

「……悪くないな」

 穂積先輩が、小さく呟いた。

「ただ、体験から購買への流れは少し弱い」

 視線の先を追うと、試した人の何人かが、そのまま離れていくのが見えた。

「……購買に繋げる力が弱いのかもしれないですね」

 言いながら、ブース全体をもう一度見渡す。
 中央に置かれたディスプレイは目立つが、その奥の商品棚はやや見えづらい。

「もしこの形をベースにするなら……」

 自然と、考えが口をつく。

「体験のあとに、視線をそのまま商品に流せる位置に配置を変えた方がいいと思います。あと、サンプルの渡し方も少し調整すれば、戻ってくる確率は上がるかもしれません」

 言ってから、少しだけ不安になる。
 的外れなことを言っていないだろうか。
 穂積先輩はしばらく黙った後で、少しだけ口元を緩めた。
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