営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
キッチンの前にある白いカウンターテーブルには、椅子が二つ並んでいる。
そこに座ると、先輩がどんぶりをトレイに乗せて運んできた。
差し出されたのは、カレーうどん。トマトと卵、上に小口切りのネギが散っていて、見た目から食欲をそそる。
「え、すごい……」
「ただの冷凍うどんだから」
「普通にお店で出してそうです。美味しそう……穂積先輩って、苦手なことってあるんですか?」
「なんだそれ。苦手が何もない奴なんかいるのか?」
「でも、部屋はきれいだし、適当って言いながらすぐに美味しそうなご飯を作ってくれるし、弱点はないのかなって」
「それを知ってどうする」
「え……怒られたときに、取引材料に使います」
「ははっ。絶対教えねえ」
なんだか久しぶりに、素の顔の穂積先輩を見た気がして、口元が緩む。そのことに気づかれないように、箸を持つ手元に視線を移した。
「いいから、伸びる前に早く食べろ」
「はーい。いただきます」
うどんは思っていたよりもやさしい味だった。
出汁とカレーのバランスが絶妙で、トマトの酸味が後味を引き締める。
卵のまろやかさが残って、雨で冷えた身体の奥がじんわり温まった。
「美味しいです!」
「あそ。ならよかった」
ところが、うどんを啜っている拍子に汁が跳ねて、借りたTシャツの胸元に小さな染みを作る。慌ててティッシュを取って抑えるが、白い生地についたオレンジ色の染みには意味がない。
「す、すみません……! 洗って返します!」
恥ずかしさに焦るわたしを見て、先輩がふっと笑った。
「ただの部屋着だから気にしなくていい」
「あの、でも……」
「鮎川は、遠慮がちなのか図々しいのか、よくわかんないな」
「……え? わたし、図々しいところなんてありました? どちらかというと従順なタイプだと思うんですけど」
「従順な人間は、人の弱点を交渉材料にしない」
そう言われると、たしかにと思う。
そこに座ると、先輩がどんぶりをトレイに乗せて運んできた。
差し出されたのは、カレーうどん。トマトと卵、上に小口切りのネギが散っていて、見た目から食欲をそそる。
「え、すごい……」
「ただの冷凍うどんだから」
「普通にお店で出してそうです。美味しそう……穂積先輩って、苦手なことってあるんですか?」
「なんだそれ。苦手が何もない奴なんかいるのか?」
「でも、部屋はきれいだし、適当って言いながらすぐに美味しそうなご飯を作ってくれるし、弱点はないのかなって」
「それを知ってどうする」
「え……怒られたときに、取引材料に使います」
「ははっ。絶対教えねえ」
なんだか久しぶりに、素の顔の穂積先輩を見た気がして、口元が緩む。そのことに気づかれないように、箸を持つ手元に視線を移した。
「いいから、伸びる前に早く食べろ」
「はーい。いただきます」
うどんは思っていたよりもやさしい味だった。
出汁とカレーのバランスが絶妙で、トマトの酸味が後味を引き締める。
卵のまろやかさが残って、雨で冷えた身体の奥がじんわり温まった。
「美味しいです!」
「あそ。ならよかった」
ところが、うどんを啜っている拍子に汁が跳ねて、借りたTシャツの胸元に小さな染みを作る。慌ててティッシュを取って抑えるが、白い生地についたオレンジ色の染みには意味がない。
「す、すみません……! 洗って返します!」
恥ずかしさに焦るわたしを見て、先輩がふっと笑った。
「ただの部屋着だから気にしなくていい」
「あの、でも……」
「鮎川は、遠慮がちなのか図々しいのか、よくわかんないな」
「……え? わたし、図々しいところなんてありました? どちらかというと従順なタイプだと思うんですけど」
「従順な人間は、人の弱点を交渉材料にしない」
そう言われると、たしかにと思う。