営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
 ◇

 第五会議室に入った瞬間、空気の重さに思わず息を呑んだ。

 普段はそれぞれ外回りに出ている営業たちが、珍しく一ヶ所に集まっている。うちだけではなく、第二営業部の蝦名さんや長谷部さんたちの姿も見えた。蝦名さんは目が合うと微笑んでくれたので、軽く会釈を返す。

 長机の中央には大型モニターが置かれ、既に投影された資料には、見慣れない企業ロゴと大きなイベントタイトルが映し出されていた。

 ……なんだろう。この案件。
 自然と背筋に緊張が走り、姿勢を正した。

「急な呼び出しにもかかわらず、多くに集まってもらい感謝する」

 営業部長が資料を閉じ、会議室を見渡した。

「本日、東都リテールホールディングスから正式に大型周年プロモーションの打診を受けた」

 その名前に、室内の空気がわずかに変わる。
 東都リテールホールディングス。
 駅直結型の大型商業施設を全国展開している企業だ。

「実施エリアは首都圏を中心に全国十七施設。予算規模も大きい。うちとしても、今年度の最重要案件になる」

 モニターに、施設の外観イメージと来場想定人数が表示される。

『期間来場予測:約四十五万人』

 数字を見た瞬間、思わず息を止めた。
 規模が、今まで自分が関わってきた案件とはまるで違う。

「今回はコンペ形式になる。競合は三社。うちと、富士デザイン。それから応和企画だ」

 その名前が出た瞬間、何人かが視線を上げた。

「相手としては不足ない、か」
「……派手に来そうだな」
「応和はこういう大型案件こそ強いですもんね」

 その会話を聞きながら、思わず穂積先輩の横顔をそっと見つめた。
 けれど、先輩はなんの反応も示さない。
 ただ静かな顔で資料に目を落としているだけだった。
 まるで、話を聞く前からすべてを把握していたみたいに。
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