営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
「今回は複数チームで叩き台を作り、最終案を一本化する。最終提案まで一ヶ月。かなりタイトだ」

 部長が次の資料を表示する。

「提案の軸は、来場者体験の最大化と施設全体の回遊促進。つまり、イベント単体じゃなく、施設全体の売上をどう引き上げるかが問われる」

 施設全体の回遊。
 その単語に、自然と頭の中で導線が組み上がる。
 駅から流れてくる人。滞留ポイント。立ち止まりやすい場所。どの店舗へ流すのか。
 気づけば、無意識にメモを取っていた。

「チーム編成を発表する」

 部長が一覧を映し出す。

「Aチームの提案統括は穂積。営業数値管理は安藤。現場オペレーションは蝦名。第二営業との連携窓口は長谷部に入ってもらう」

 その後も数人のメンバーの名が呼ばれ、そこまではなんとなく予想通りだった。
 だけど次の瞬間、耳を疑う。

「現場体験導線の担当は、鮎川」
「……え?」

 思わず顔を上げた。
 一瞬、自分のことだと理解できなかった。

「鮎川、聞いてるか」
「は、はい!」

 慌てて返事をすると、部長が小さく頷いた。

「最近の実績と現場評価を見て決めた。企画部の経験もある。今回は現場視点を積極的に入れたい」

 視界の端で、何人かがこちらを見た気がした。
 新人の自分がこの場にいることを、不思議に思われてもおかしくない。

「……大丈夫か?」

 小声で安藤さんが聞いてくる。

「え、あ……が、頑張ります」

 そう答えた声は、少しだけ上擦っていた。
 会議はそのまま、チームごとのクライアント分析へ移った。

「施設側の要望は、滞在時間の延長と回遊率改善です」

 企画担当者が説明を続ける。

「特に若年層の滞在が短い。SNS施策だけでは限界が出始めているそうです」
「つまり、映えるだけじゃ駄目ってことか」

 長谷部さんが腕を組みながら言った。

「体験価値そのものが必要なんでしょうね」

 蝦名さんが静かに続ける。

「ただ、体験に寄せすぎると回転率が落ちる。そのバランスをどう設計するかだと思います」

 自然と会話のレベルが高くなっていく。
 誰も感覚だけで話していない。
 数字と現場と企画、その全部を行き来しながら会話している。

 そのスピードと、全体を見つめる視点の高さに圧倒された。
 だけど同時に、身体の内側に熱が灯るのを感じる。

 ここでなら、もっと学べる。
 その高揚感を止めることができなかった。
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