営業部の穂積先輩は今日も不機嫌で困る
「……昔の拓真なら、もっと上を選んでたわ。あなただけは、私と同じ景色を見てると思ってた」
「静香には悪いが、俺はそこまで野心的な人間じゃない」

 穂積先輩の声は静かだった。

「野心を持つことの何が悪いの?」
「……自分の目的のためなら、周囲が多少傷ついても前に進める。静香のそういうやり方には、昔も今もついていけない」
「そんなつもりはなかったわ」
「お前は普通の立場じゃない。そういう人間の行動は、どういうつもりで動いたかじゃなく、何を為したかで判断される。……わかってるだろ?」

 少しだけ寂しそうに、音羽さんは笑った。

「あなたの中で、わたしがそういう人間に見えるなら、それが全部ね」
「……もうやめないか」

 不意に、音羽社長が低い声で口を挟んだ。その圧に、音羽さんがはっとした顔をした。

「お前、拓真が辞めたあとも相当しつこくしたんだろう」
「……しつこくなんてしてないわよ」
「何度断られても接触を続けたらしいな。それを世間じゃ何て言う」

 空気が一瞬で張り詰める。
 音羽さんは何か言い返そうとして、それでも続く言葉を飲み込むように黙る。

「俺が何も知らないと思ってるのか。
 拓真が応和を辞める時、どれだけ揉めたと思ってる」
「……そんなには揉めてないわよ」

 音羽さんは拗ねたようにそう言った。それは、今までの彼女とは少し違う、娘の顔だった。
 音羽社長は小さくため息を吐いた。

「だから俺が、拓真に外へ出る道を作ったんだろうが。
 そもそもお前と拓真の性格は水と油だ。一緒にいれば、どちらかが無理をすることになる」
「……お父さんまでそんなことを言うのね」

 そう言い捨てるようにして、音羽さんは気落ちした顔で病室を出て行った。
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